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  • ベルテクス・パートナーズ INNOVATION SOLUTION チーム

アジア保険大手のスタートアップとのアライアンスによる新サービスの模索


目立った取り組みが少ない保険分野でのオープンイノベーション

  フィンテック分野で目立った取り組みがまだ多くない保険領域のイノベーション。シンガポール保険大手のNTUC Incomeは、オープンイノベーションで保険領域のイノベーション創出に取り組み始めた。

 アクセレレータープログラム「Income Future Starter」で選出した9社のスタートアップから垣間見えた、保険領域のイノベーションの未来を探ってみたい。

1.フィンテック最後のフロンティア「保険テック(InsurTech)」

 フィンテックという言葉が違和感なく使われるようになり、クラウドファンディングから会計ソフト、ブロックチェーンやビットコインに至るまで、IT × 金融の流れが今後ますます加速していく流れが進んでいくことに疑い持つ人は少ないだろう。

 これまで、大手金融機関の盤石な事業基盤や複雑な法規制が新規サービス立ち上げの障壁となってきたが、今やどの金融機関もフィンテック領域での新たなサービス展開を模索している。

 大きなリスクをとって新規サービスに取り組むことが難しい大手金融機関は、オープンイノベーションでのスタートアップとの協業で新規サービスを展開することに活路を見出し始めている。

 大きなリソースを持つものの、新しいサービスなどの取り組みが不得手な大手金融機関は、リスクを取れるスタートアップと組むことで、金融機関側は自力でサービス立ち上げを行うよりもリスクを抑えた形で新規サービスの取り組みを模索し始めている。

 そんな中、保険業界はフィンテックの新たな動きにおいて出遅れてきた。契約から保険料支払いまで、時に数十年という長い年月を要するビジネスモデルは、新規参入が難しく、長年新規サービス展開の不毛の領域とされてきた。

2.保険領域特化アクセレレータープログラム「Income Future Starter」

 そんな中でアジアにおいて、1970年に設立されたシンガポールを代表する保険会社NTUC Incomeが積極的なオープンイノベーションの取り組みに舵を切っている。

 保険領域の革新に挑むスタートアップ10社を選出して、11週間に渡って新規のサービス化に挑んでいる。プログラム運営を担当するのは、アクセレレーターのTAG.PASS、そして投資会社のInfocomm Investments Private Limited (IIPL)がパートナーとなっている。

 対象とするのは、すでにプロトタイプがリリースされているフェイズのスタートアップである。選定されたスタートアップには、28,000ドルが提供され、NTUCや他プロフェッショナルファームからのコーチングを受けられる。

 また、共に参加するスタートアップチームとのネットワーク構築ができることも、スタートアップにとっては大きなプログラムの参加メリットとなる。

 「Income Future Starter」には、実に20カ国より190社からの応募が集まった。その注目度の高さが伺える数字だ。選出スタートアップは、将来的にNTUC Incomeとの協業が見込めるかといった点も考慮の上で選考が行われ、サービス化に挑む。アジアにおける保険業界のイノベーションの未来が、ここから垣間見えると言える。 ここからは、選出されたスタートアップ9社を、「予防医療」「顧客体験(CX)」「デジタルアドバイザリー」の3領域に分けて紹介していこう。

2-1.

予防医療領域の選出スタートアップ3社

糖尿病予防サービス「Health2Sync

日々の血糖値測定を通して、糖尿病予防を助けるスマートヘルスアプリ。台湾のH2 Inc.が運営。ユーザーは、測定データを下に、必要に応じて医療システムとつながることができる。また、家族と血糖値の記録を共有でき、遠くにいる家族の健康状態を知ることができる。

パーソナルアシスタントロボット「Innoplaylab

 音声認識と会話、スケジュール管理、感情の察知から好みの音楽の学習に至るまで、ベイマックスを地で行くアシスタントロボット。韓国のInnoplaylabが運営。「スマートホーム」向け家庭用ソリューションというコンセプトの下、自宅のセキュリティや子供・ペットのケアに至るまで、幅広いニーズへの対応を狙っている。

血管と腎臓の健康状態を見守るデバイス「NephTech

 腎臓機能に不安を抱える患者に対して、日々の血液の状態の管理・分析を可能にするデバイスを提供。シンガポールのNeph Tech Pte Ltdが運営。デバイスはハードウェアの他に、クラウドでの病気を予測するアルゴリズム、データ蓄積によるサービス向上といった機能を備えており、患者の容体深刻化の予防を目指している。

2-2.

顧客体験(CX)領域の選出スタートアップ4社

自動車保険の常識を変えるアプリ「Anywhere 2 Go

 自動車事故発生後の保険会社とのコミュニケーションを変えるアプリ。

これまで、損害保険会社のオペレーターと電話で行われていたプロセスを、アプリ上で完結させる。GPS、事故状況の写真、待ち時間のない対応によって顧客体験(CX)を改善するサービス。タイのANYWHERE 2 GO CO., LTDが運営。

雑用代行ボット「Konolabs

 AIを活用してメールやチャットボットのインターフェイスを最適化することで、より効果的なスケジュール管理を実現。韓国のKono.aiがベータ版を運営中。

 打ち合わせの調整メールを相手に送る際に、KonoをCCに入れることで、候補日の自動表示が可能。日々の雑務や打ち合わせを快適にこなせるように、包括的なサポートサービスを構想している。

モバイル時代のCRMサービス「QuickDesk

モバイル用に最適化されたCRMサービス。顧客とのコミュニケーション、ゴール設定とそのトラック、請求書の自動発行までをワンストップで提供している。シンガポールのPear Commsが運営。顧客とのより迅速なコミュニケーション、強固な関係構築をサポートする。

ビデオで撮る電子署名サービス「Selfie Video Signature

 ビデオで署名する様子を撮影することで、オンラインで契約書を交わす不安とリスクを軽減し、信頼関係の伴った契約関係を実現するサービス。台湾のThinkCloudが運営。Selfie Video Signatureと平行して、デジタルヘルスケアサービスも開発中である。

2-3.

デジタルアドバイザリー領域の選出スタートアップ2社

加入保険の最適化アプリ「PolicyPal

 自身のライフプランなどの方針に応じて、最適な保険サービスを提示してくれるアプリ。現状加入している保険の保障が十分であるか、または必要以上に多く払っている保険料を削減できるか、などを知ることができる。シンガポールのPolicyPalが運営している。

AIで旅行業界を変えるサービス「Zumata

 旅行代理店等に対して、AIを利用したオペレーション改善サービスを提供している。ホテルの予約受付API、HPの最適化、AIを使った顧客サービスの改善が可能である。シンガポールのZumataが運営。IBMのワトソンと連携してAIサービスに取り組んでいる。

3.アジアでも動き始めた保険領域のイノベーション

 保険領域に直結したサービスから、すぐには保険との接点が分かりづらいものまで、面白いアイデアに満ちた9社が「Income Future Starter」では採用されている。

 2016年1月からのプログラムでのNTUC Incomeとのシナジーによる新規サービスが生まれることが期待される。

 保険会社は、加入者に健康な生活を長く続けてもらうことで、保険契約の加入期間を長く保ってもらうことで収益を向上させることができる。 人々の生活を豊かで健康なものとしていくことに貢献できるスタートアップを育成することは、加入者サービスとしても、保険ビジネスの収益向上を目指す上でも理にかなった取り組みだと言える。

 本プログラムでは、予防医療、顧客体験(CX)、デジタル・アドバイザリーの3領域からスタートアップが選出されていたが、今後はさらに遺伝子検査による病気リスクの予測と関連する医療サービスなど医療分野のスタートアップも合流していく可能性なども考えられる。

 アジアでも動き始めた保険領域のイノベーションで、どのような新しい取り組みが生まれるのか今後も注目される領域となるだろう。

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

INNOVATION SOLUTIONチーム

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 
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