外食産業で進み始めたAIロボットの現場活用の海外事例②

レストランで料理をサーブするAIロボット

 

 前回の記事では、ミソ・ロボティクス社のAIロボット、フリッピーを導入して店舗キッチンでのハンバーガーパテの調理自動化を進めるハンバーガーチェーン、カリバーガーの事例を紹介した。

 

 今回はシリコンバレーのレストランやカフェのホールで、料理をサーブする、ベア・ロボティクス社の自走AIロボット、ペニーの活用事例を紹介していく。

 

 

1.レストランのホールで料理を運ぶAIロボット

 

 ロボットの愛称は、ペニー(Penny)。小さなレストランの中を上手に動き回り、料理を客のテーブルまで運ぶAIロボットだ。ペニーを開発したのは、元グーグルの技術者が立ち上げたスタートアップ、ベア・ロボティクス(Bear Robotics) である。

 

 ペニーは、ボーリングのピンを大きくしたような胴体に、お盆を頭に乗せたような形状で、一生懸命食事を運んでいるように見えるペニーの姿は、どこか微笑ましい。ペニーは、頭上の丸盆の上に、できあがった食事や、食べ終わった皿を乗せて、レストランの中の人や障害物を避けて上手に自走する。

 

 料理の用意ができたら、マネジャーは、タブレットのベア・ロボティクスのアプリを使って、食事を客のところへ持っていくように、ペニーに指示を出す。

 

 食事が終わった頃に食事の終わった皿を下げるために、客のテーブルに戻ってくる。 ベア・ロボティクスの共同創業者及びCEOであるジョン・ハ(John Ha)氏は、6年間グーグルでエンジニアとして働いており、そのとき、売りに出されていた小さな韓国レストランに投資を行ったが、そこで外食産業というものが、いかに人手に頼り、非効率で、難しいかを思い知った。

 

 ハ氏はグーグルを退職してベア・ロボティクスを立ち上げ、自分のレストランのために、料理を素早く提供し、食後に皿を持って帰ることでホールスタッフの作業削減と効率化を実現するべく自走式ロボットを作ることにした。

 

 カリフォルニアのミルピタスにあるレストラン、カンナム豆腐ハウス (Kang Nam Tofu House) でペニーが活躍している。2017年8月の導入当初は、ロボットがスムースに走っているかを確認するため、エンジニアが店に控えていたが、12月からは、エンジニアの監視なしでペニーは毎日稼働しているという。

 

 ベア・ロボティクスは、ペニーの自走機能を強化し、「Labor as a Service(LaaS)」という ビジネスモデルを提唱して、地域のチェーン店に月額や時間単位でのレンタルを始めており、ペニーは、すでに地元のピザレストランや、カフェ、レストランでも導入実績を積み重ねている

 

 

2.レストランのホールで活躍するAIロボット、ペニーの特徴

 

 ペニーはシンプルな形状と機能で、使いやすさにとことんこだわったAIロボットとして設計されている。 ペニーは、レストランの現場担当者でも簡単に使いこなせる使い勝手のよいアプリで制御できるようになっており、レストランオーナーやマネジャーは、タブレットを使って、テーブルなどキーとなる場所をマークしておくだけで、ペニーはその場所を避けて、レストラン内を動き回ることができる。

 

 注文の料理が準備できたところでマネジャーがタブレットのアプリからペニーを呼んで料理をペニーに載せると、ペニーは注文した客のテーブルへと料理を運んでいく。 ペニーには腕はないため、ペニーが料理を持っていったテーブルでは、ホールスタッフか、注文した客がペニーの頭上のお盆から料理の皿を取って、テーブルに移さなければならない。

 

 ペニーには自走する以外の機能は盛り込まれておらず、ペニーは料理を客の前まで運んで待っているだけで、人に料理を取り上げてもらうという前提で活用されている。

 

 ハ氏によれば、顧客もこうしたロボットとのやり取りを楽しんでおり、料理を運ぶ作業をペニーがやってくれるおかげで、店員は客との会話などサービスの質を高めることに時間をかける余裕が生まれている。

 

 

 

3.AIロボットとしてのペニーに備えられたAI

 

 ペニーを活用する事前準備は、タブレットのアプリでレストラン内のテーブルなどの障害物となる箇所をマークするだけである。あとはペニーのAIによる自走テクノロジーによって、設定された障害物を避けながらレストラン内を動き回り、レストランのレイアウトを学習していく。

 

 学習したレストランのレイアウトのデータをもとに、厨房から料理を運ぶ目標のテーブルまでの最短ルートを解析して料理を運んでいく。

 

 もちろん、あらかじめマークしたレストランレイアウト内の障害物だけでなく、レストラン内で店員がペニーの前を横切ったり、進路で顧客が歩いていたり、床に落し物があったりしても、ペニーに搭載されているセンサーによって直前で検知されて、料理をこぼすことなくスムースに立ち止まることができる。

 

 2017年に創立されたベア・ロボティクスから活用しているセンサーについては公開されていないが、ルンバなどの自走式の掃除機と同様に赤外線センサーで周囲の情報を検知していると考えられる。

 

 ベア・ロボティクスは、店内のホールのオペレーションだけにフォーカスしており、ペニーが自走するためのレストランレイアウトと経路を学習するAIアルゴリズムに特化して現時点では開発を行っている。

 

 料理の配膳と片付けは、どんなタイプのレストランでも必要とされる基本業務である。ペニーが、基本業務の自動化を行うことだけにフォーカスしたシンプルなロボットであるからこそ、かえって外食業界に影響を与え、大きな市場を作り出すポテンシャルがあるのだろう。

 

 将来的には、自走機能だけでなく、注文受付やPOSとの連携なども含めて、ペニーが対応していけるように機能拡張したいと、ベア・ロボティクスは考えている。

 

 

4.店舗で人と働くロボットにおけるAI活用のポイント

 

 今回の事例と前回紹介したミソ・ロボティクスの店舗内調理AIロボット、フリッピーにように、従来、こうしたAIロボットの導入が難しいと考えられていた比較的小規模なレストランでも海外では導入にトライする企業が登場してきており、実際に活用事例も出始めている。

 

 この海外事例から小規模なレストランにおいて導入されているAIロボットがどのような特色を備えているかまとめてみよう。

 

  人と協働する前提でAIロボットを設計

フリッピーもペニーも、自動化できる作業範囲が限定されているということもあり、どちらもレストランの従業員を置き換わるものではなく、あくまでも人と協働することで調理や料理のサーブを完遂することを前提に設計されている。

 

 これは、現場のオペレーションを丸ごと置き換えるのではなく、補完していくという位置付けで、活用に失敗した際のリスクを抑えて導入のハードルを下げることができている。

 

  無理なく実装可能なAIを活用

フリッピーは、画像認識や温度による対象物の識別と、作業の習熟や新しい作業の習得においてAIを生かしており、ペニーは自走する環境とルートを認識するためにAIを使っている。こうしたAIは、他の領域ですでに実用化されているものであり、最先端研究を行う大学や研究所の全く新しい技術を使っているわけではない。

 

 こうした、実績のあるAIを組み合わせることで、現時点でもこのレベルのことができるようになっている。

 

  現場の設備を変えずにすぐに稼働可能

カリバーガーでのフリッピーは、既存のレストランの設備を変更することなく5分以内にキッチンに設置して調理を開始することができる。ペニーもホールに置いたその日から稼働を開始することが可能である。

 

 こうした設備での工事いらずな点も営業日は1日も減らしたくないレストランにとっては導入する側にとってはありがたいことだろう。

 

 以上、前回記事と2回に渡り、日本ではあまり例を見ない、レストランの現場におけるAIロボットの海外事例を見てきた。日本における外食産業の現場も、社員、アルバイトともに求人募集を行っても人が集まらず、今後解消の見込みのない慢性的な人手不足や人件費高騰に対応するため、大幅な生産性の向上策が求められている。

 

 将来に渡る課題を解決する一つの方法として、紹介した海外事例のような、人との協働に向いたAIロボットの活用は、日本国内においても今後模索されるべき選択肢となりうるだろう。


 

 

 

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執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

AI/INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 

監修者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

 

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

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