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  • ベルテクス AI/INNOVATION SOLUTION チーム

海外の教育現場で活用が広がる「AI教師」による学習サポート


海外の教育現場で本格的に普及が進み始めたAI活用による教育サポート

多岐に渡る教育へのAI活用。ここでは「AI教師(AI Tutor)」と呼ばれる、学習指導へのAIの活用に着目したい。英国ロンドンの多くの小中学校で採用されているThird Space Learningと、米国ウィチタの公立中学校、高校で採用されているCarnegie LearningMATHiaの事例を通して、AIと教師との協働の姿を探る。

1.教育におけるAIの活用分野

 教育へのAI活用の試みは急速に増加しており、特に海外の教育現場においては、その活用分野が多岐に広がっている。

  • 採点や学習進捗管理といった教師の事務的な作業の代行

  • MOOCなどオンライン授業の提供

  • チャットボットのバーチャルメンターによる自己学習支援

  • 学習内容や学習指導のパーソナライズ

  • 教師と生徒、生徒同士でのQ&Aや情報共有のためのコミュニケーションの促進

  • 教材の多言語対応

  • AR/VRによる体験学習

  • データ分析や学習レベルのモニタリングによる教師への支援

日本国内では、AIどころかPC、タブレット利用もまだこれからという状況だが、海外では、学校でのカリキュラムの重要な部分において、より踏み込んだAI活用がすでに始まっている。

2.ロンドンの小学校におけるThird Space Learningの事例

 英国ロンドンにあるペイクマン小学校では、算数に苦手意識を持つ生徒を対象に、週に一度の放課後にマンツーマンのオンライン・レッスンを行なっている。

 生徒は、毎週同じ教師から、一回45分のレッスンを受けられる。ヘッドセットを使って、オンラインでの教師とのビデオ通話で、ホワイトボード上でビジュアルな教材を共有しながら学習を進める。生徒は自分のペースで、レッスン中いつでも、わからない箇所を教師に聞くことができる。

 この補習によって、算数に恐怖心さえ抱いていた生徒も、楽しみながら学習する習慣を身につけられるようになっている。

Third Space Learningは、2012年の創業以来、英国の小中学校にオンライン・レッスンを提供している、インド発の教育サービス企業である。現在、英国の小学校だけでも1,200校以上に、サービスを提供しており、2016年には、AIを組み込んだサービスをリリースしている。

 しかし、生徒に算数を教えているのはAIではなく、インドやスリランカにいる人間の教師だ。実はAIは、生徒からは見えないところで、人間の教師の支援で活用されている。

 Third Space Learningの「AI教師」は、生徒の学習進捗をリアルタイムにモニターし、提供するサービスを適宜調整していく。

 例えば、生徒から一定時間回答がないと、「AI教師」は、学習パフォーマンスが低下している可能性があることを、リアルタイムで人間の教師に伝える。

 また、生徒が理解が追い付いていない兆候を見せたり、教師が重要なポイントをスキップしてしまったりした場合にも、AIが検知して、問題となる前に教師に知らせるようになっている。

 この「AI教師」は、Third Space Learningと、英国University College London によって共同開発されたものだ。実際のオンライン・レッスンの記録を蓄積し、約10万時間分のレッスンの内容ををAIに機械学習させることで、レッスンの学習効果が高まった成功パターンを見出して、学習指導方法を最適化させる仕組みを作り上げた。

 例えば、初期の分析では、教師が早口で説明しすぎると、生徒が興味を無くしがちであることがわかった。そこから、生徒に回答までの十分な時間を与えて、教師はもう少し待った方が授業はうまくいくと、「AI教師」が人間の教師にフィードバックするといったきめ細かい教師へのサポート機能を提供したりしている。

 このように、Third Space Learningでは、「AI教師」を人間の教師に取って代わるものではなく、人間の教師を支えるものとして位置づけて、両者の最適な補完関係を実現している。

3.米国ウィチタ中学/高校が採用したCarnegie LearningMATHia事例

 米国カンザス州ウィチタ学区では、2016年春に、26人の中学校教師、32人の高校教師から成るパイロットチームを立ち上げて、4つの新しい学習カリキュラムの評価を行った。そのうち、パイロットチームの教師の約90%から高く評価されたのが、Carnegie Learningの数学カリキュラムだった。Carnegie Learningは1998年に創業された数学学習の教材や学習用ソフトウエアを提供している。数学学習用のソフトウエアはカーネギーメロン大学のAI研究者らによって設計されている。

 2017年3月、ウィチタ教育委員会は、Carnegie Learningの数学カリキュラムを、7年間に渡り採用することについて、430万ドルの予算を承認した。ウィチタの中学、高校の生徒は、その秋から、新しいカリキュラムを使い始めることとなった。

 この新カリキュラムで、生徒が活用するのは、Carnegie Learningの提供する「AI教師」MATHiaだ。MATHiaは、生徒の苦手な学習内容を重点的に理解できるように生徒個人に合わせて指導が提供される。生徒の学習進捗や、MATHiaから得られる理解度の分析結果は、生徒本人と生徒の教師も把握することができる。よって、MATHiaはそれだけで完結する自習ツールという位置付けだけではなく、学校の教師による普段の授業での指導にも活用していくことが想定されている。

 MATHiaは、人間の教師のような学習サポートを行うべく、生徒がMATHiaによる学習を行うことで蓄積される多様なデータから、生徒の現在の学習理解度や習得レベルを分析し、生徒の将来の学習成果の予測も行っている。

 MATHiaは、収集したデータを分析し、それぞれの生徒の学習の進捗に合わせて学習内容も変更し、生徒の学習が順調に進んでいるか、ヒントを求めているかどうかなどのアクションによって、生徒の理解度の評価も行っている。

 このようにMATHiaは、それぞれの生徒の学習のやり方/くせに合わせて学習を完了させる手助けをするように、生徒の問題の解き方/解く順番によってMATHiaはまるで人の教師が教えるように、生徒に出すヒントを変化さる。

 このような人の教師が各生徒に合わせて個別に教えるように学習をサポートするMATHiaは、教師が不足しているような地域においても、しっかりとした教師から教わるように生徒の学習効果を高めていくことが期待されている。

4.これからの「AI教師」との協働による学びのかたち 

 Third Space Learningの場合、生徒と「AI教師」との間に、人間の教師が入る。これまでのところ、生徒と直接コミュニケーションを行うのは、人間の教師だ。

 一方、Carnegie Learningの「AI教師」MATHiaは、人間の教師ではなく、教育ソフトウェアの教師が、直接生徒に数学を教える。しかしMATHiaにおいても、対象生徒の選定や、生徒の学習目標設定は、学校の教師が実施や支援をする必要がある。

 いずれのケースにおいても、「AI教師」を活用することで、人間の教師一人で行う教室での画一的な座学授業では実現できない、生徒一人一人の学習理解度に合わせたきめの細かい個別指導と学習進捗/理解度の見える化による人間の教師による個別指導のサポートをAIを活用することで効率的に実現する取り組みが海外では進み始めている。

 同様の仕組みは学校教育だけではなく、企業研修やその他の学びが行われる場でも同様に有効であろう。今後の「AI教師」の応用領域を探るのも有意義ではないだろうか。

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

AI/INNOVATION SOLUTIONチーム

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 

監修者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

 
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