領域特化アクセラレータープログラムを活用したベンチャー企業の探し方
水事業特化アクセラレーターImagine H2Oのベータパートナー制度
水分野のテクノロジーやデータ領域に強いアクセラレーターImagine H2O(以下、IH2O)は、2009年から30以上の国で550以上のスタートアップを支援してきた。
IH2Oは、50社以上の大企業を「Beta Partner」としてプログラムに巻き込み支援先スタートアップの事業立ち上げをたしかなものとしている。
1.水領域に特化したアクセラレータープログラム IH2O
グローバルで300を超えるアクセラレーターが有望スタートアップを模索してひしめく中、対象領域を特化するアクセラレーターも増加し、中でも水分野に特化したアクセラレーターとして知られるのがNPOでありながらアクセラレータープログラムを運営するIH2Oだ。
IH2Oは2009年のスタート以来、550以上のスタートアップを支援してきており、30カ国以上の起業家を支援している。White House Water Summit やカリフォルニアの水分野の政策への支援など、水関連の領域のエキスパートとして政策提言も行っている。
IH2Oは、食、農業、そして水分野と事業領域を設定して、各事業領域に特化したスタートアップ支援のノウハウを蓄積してきている。
特に、「データ」に基づいた課題特定、マーケティングに定評があり、水分野の事業においても、その解析技術を活かした取り組みが数多くなされている。
2.2017年のIH2Oのプログラムで選出されたスタートアップ12社
2017年のプログラムでは20か国180社からの応募があり、その中から12社のスタートアップの選出が発表されている。
参加スタートアップは、メンタリング、マーケティング、投資家の紹介、そしてベータパートナーとして参画する50社程度の企業との協業の検討機会が与えられる。
選考基準等は明示されていないが、選出されているスタートアップから、水関連領域でのデータ収集/解析に強みを持つテクノロジースタートアップが対処となっているように見受けられる。
パイプなどのインフラの現状をデータに基づいて解析し、目的に応じてより効率的な配置方法を特定するサービスを提供。
水の消費状況をトラックし、水漏れの危険を察知して知らせるサービスを提供。
最大限の作物の収穫を得るために、雨量の解析、水による作物のストレス状況を分析して、対処方法を提案するサービス。
バーチャル環境のディスプレー表示ができるデバイスを開発。
家庭等で、水の消費状況をモニタリングして、水漏れの防止を行えるテクノロジーを提供。
バイオセンサー技術によって、水の質を簡単に評価できるサービスを提供。
農作物の状態の管理と対処、予算管理を一括で行える農場マネジメントソフトを提供。
水に依存したサービス事業に対して、どのようなリスクが存在するかを診断するコンサルサービス。
AI/ディープラーニングを活用した水管理システムを提供。
ガン治療のためのバイオテクノロジー開発を提供。
インド、ブラジルにおいて安価な薬の提供。
遠隔で水管理、水漏れ防止が行えるサービス。
3.ベータパートナーとしてのベンチャー企業の探し方(ネスレの事例)
IH2Oのプログラムでもう一点特徴として、「Beta Partner」という大手企業を緩やかに巻き込んだプログラム設計を行っている。
通常アクセラレーターが複数の大手企業と協働する際には、多くても5社程度が一般的であるが、IH2Oは「Beta Partner」として50社程度の企業が参画している。
「Beta Partner」となる大手企業にとってはどのようなメリットがあるのかをネスレを例に挙げて見ていきたい。
Nestle Waters North Americaは、2016年9月にIH2Oのプログラムに「Beta Partner」として参加を表明している。
Nestle Waters North Americaは、アメリカで三番目に大きなノンアルコールの飲料会社であり、8,500人の社員を抱え、従来より責任ある水管理のあり方を探ってきた。
「Beta Partner」としてのIH2Oへの参画は、CSR活動の一貫であり、参画を通して環境に負荷の少ない水ビジネスを支援している実績を打ち出すことを企図している。
さらに、IH2Oのプログラムを支援することを通して、環境への負荷を減らす技術やベンチャー企業を探す狙いがあるのだ。その中で有望なベンチャー企業があれば、協業や出資を行う事も想定している。
IH2Oの「Beta Partner」は、1社単独で主催するアクセラレータープログラムやコンソーシアム形式で複数企業が連携してアクセラレータープログラムを運営する形とどのような違いがあるのだろうか?
「Beta Partner」は、プログラムへのメンターや事務局などのリソース投入を行わずに、プログラムの要所でのアイデア確認やデモデイでの事業モデルの確認などの機会を得ることでスタートアップと接触する機会が持てる点にある。
どんなスタートアップが出てくるか分からないアクセラレータープログラムのスポンサーシップよりも、領域特化されている分、狙った領域での有望スタートアップを発掘して協業を模索できる可能性も高く、コストも抑えられるという参画形態にある。
自社で独自のアクセラレーターを主導する際には、自社の目的に応じた設計ができる一方、多くのリソースを割く必要があり、加えてスタートアップとの協業/出資という具体的な成果が求められる。一方ベータパートナー制度では、コストも低い分、担当者のプレッシャーも少なくて済むというメリットもある。
日本国内では領域特化したアクセラレーターとして、現状目立った事業者は存在しないが、海外も含めて、有望スタートアップを探索する手法として、領域特化したアクセラレータープログラムの「ベータパートナー」的な簡易スポンサーの仕組みを持つプログラムを活用するというのは有効な選択肢となると考えられる。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
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