• 赤松広康(Hiroyasu Akamatsu)

【海外事例】イノベーションを異業種とのパートナーネットワークで実現するコカ・コーラ



 大企業の持つリソースと、スタートアップが持つ技術や斬新なアイデアを組み合わせるオープンイノベーションの手法として、近年多くの企業で導入されているアクセラレータープログラムですが、アクセラレータープログラムで設定されたテーマに基づいて採択されたスタートアップが実証実験/PoCを進めたとしても、主催企業側の求める水準に達しないなどの理由で、必ずしも主催企業側と事業連携が実現するとは限りません。また実証実験/PoCを行い、大企業とのパートナー契約が実現したとしても、実際にプロダクトやサービスが正式に世に出るまでには一定の時間を要することや、企業間の文化や商慣行の違いでトラブルになることも少なくありません。


 多くの企業がそのようなオープンイノベーションの難しさに悩む中で、全く業種が異なるパートナー企業とアクセラレータープログラムで連携することで、大企業側がスタートアップ側の技術資源や新規アイデアを活用すると同時に、スタートアップ側も複数の大企業との協業可能性を模索できるウィンウィンのパートナーネットワークを築いているのが、世界的飲料メーカー「コカ・コーラ」です。


 自ら運営するアクセラレータープログラムを「事業化プログラム (a commercialization program)と銘打ち、スタートアップと連携することで早期に消費者ニーズを掴み、自社の膨大なリソースとスタートアップを連携させて事業成果を求めることを強調する彼らのアクセラレータープログラムからは、多くの日本企業が採用する個別企業ごとのアクセラレータープログラムでは見られない柔軟なパートナーネットワーク構築を行うメリットが見えてきます。


  1. 異業種ネットワークによるイノベーションプログラム運営

  2. 異業種間プログラムによる事業化で実現するイノベーション

  3. まとめ:異業種イノベーションネットワークに見る日本企業への示唆


 以降、順番に見ていきます。



異業種ネットワークによるイノベーションプログラム運営


 コカ・コーラは現在、顧客接点を強化できる可能性のある技術やビジネスモデルなどを持つスタートアップと早期に連携することを目的として、アクセラレータープログラム「The Bridge」を2014年から運営しています。

同プログラムの最大の特徴は、タイムワーナー傘下の米アトランタのメディア企業「ターナー・ブロードキャスティング・システム(Turner Broadcasting System)」、自動車メーカーの「メルセデスベンツ(Mercedes-Benz)」といったコカ・コーラから見て全く異なる業種となる企業をパートナーとしていることです。


 Techcrunchの過去の記事において、The BridgeゼネラルマネージャーのGabby Czertokが言及している内容によると、「there’s roughly a 70 percent overlap in the types of technology startups all three are interested in.(パートナー関係にあるコカ・コーラ、ターナー・ブロードキャスティング、メルセデス・ベンツの3社は業種は異なるものの、関心を示すテクノロジー系スタートアップの約70%が重複しています)」とのことです。


 また、パートナー企業3社が求めている技術ニーズもVRなど共通する技術が多くあり、共通の技術から各社各様の活用方法を見出すことができます。


 同時に、業種が異なるパートナー企業3社はそれぞれ異なった強みを持ち合わせており、お互いに補完し合える関係にあると言えます。

  • コカ・コーラ:消費者向け製品の製造販売で培ったマーケティング技術と知識

  • ターナー・ブロードキャスティング:広告表示やスマートフォンやWebサイトにおけるコンテンツ利用動向などの知見

  • メルセデス・ベンツ:自動車製造で培った品質管理技術

 パートナー企業3社は異業種であるもののプログラムにおいて、求めるスタートアップと技術に共通するものが多く、それぞれの企業により強みが異なるため、パートナーネットワークを構築する意義が大きいと言えるのでしょう。



異業種間プログラムがもたらす多彩なスタートアップとのイノベーション


 コカ・コーラなど3社によるアクセラレータープログラムである「The Bridge」のスタートアップ募集は年に1回の頻度で実施しており、創業初期のシードステージからミドルステージのスタートアップを中心に募集を行い、毎回10社前後のスタートアップ企業を採択します。6月から12月までの7か月間のアクセラレータープログラム期間を経て、12月にデモデイを開催しています。


 募集テーマとしては、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)、サプライチェーンなど9つの主要なテーマの中からスタートアップが応募します。


 アクセラレータープログラム期間中には、コカ・コーラの強みであるマーケティングの専門知識のトレーニングや、コカ・コーラ社内の担当者との連携機会を提供することはもちろん、メルセデス・ベンツやターナー・ブロードキャスティング・システムとの連携機会も与えられ、コカ・コーラとの連携に限らない様々な協業取り組み創出の機会をスタートアップ側は得ることができ、実際に事業化につながる製品・サービスの開発を進めていきます。


 また、例年12月に実施している成果報告会(デモデイ)の注目度は高く、コカ・コーラの幹部、ベンチャーキャピタルや一般客も参加し、資金調達機会をはじめ様々なビジネスチャンスを手にする絶好の場と言えます。



2020年度プログラムでも多彩なスタートアップを採択


 直近の2020年度のプログラムでは、12社のスタートアップが採択され、ビジネスプロセスの効率化を目指す事業、ビデオコンテンツ事業、プラットフォーム事業など多岐にわたっています。


 例えば、ビデオコンテンツ事業のスタートアップで見ると、「Minute.ly」は、AIとビッグデータの活用により動画コンテンツの中から自動で視聴者が最も強く反応を示すハイライト部分を特定し、抽出する独自の技術を有しています。動画コンテンツの中から抽出したハイライト部分を視聴者の動画コンテンツ消費を増やすのに役立つ短いティーザー広告やプレビューに活用することにより、視聴者数を増やし、収益化を図るサービスを提供しています。


 また、製品管理プラットフォームを開発する「Craft.io」は、製品開発に関わる様々な規模の企業やチームが、戦略から実装に至るロードマップやKPI、他の開発チームも含めた開発のキャパシティや優先順位付けなどを一元的に担える機能を提供することで、明快な製品プロセスだけでなく、透明性の高いチーム作りにも貢献することを目指しています。


 その他にも、AIによる分析を用いてチームの合理的な意思決定をサポートするプラットフォームを開発する「MENTO.io」、採用候補者の履歴書情報とビッグデータを組み合わせ、候補者ごとに連絡手段やタイミングを変更する機能を提供することで高い回答率と採用時間の短縮を実現する「SPETZ」などが採択されています。


 また、2021年現在、「The Bridge」は7名がプログラム運営に関わっており、プログラム専属のゼネラルマネージャー1名、プログラムディレクター2名の計3名に加えて、コカ・コーラから2名、ターナー・ブロードキャスティングから1名、メルセデス・ベンツから1名がそれぞれ参画しています。主催企業であるコカ・コーラが運営を担いながらも、他のパートナー企業に対しても一定の運営への関与が認められていることが、メンバー構成を見ても言えます。



まとめ:異業種イノベーションネットワークに見る日本企業への示唆


 コカ・コーラは以前、「Coca-Cola Founders」という起業家ネットワークプログラムを2013年から運営し、グローバルで計11社のスタートアップに対して25万ドルずつ出資を実行してきました。


 Coca-Cola Foundersはその名の通り、「創業者(Founder)」に焦点を当てて、プロダクト/サービス開発前のプレシード期のチームの参加も認めて、コカ・コーラの強みであるマーケティングリソースなどを提供、プロダクト/サービスの仮説検証が認められれば、コカ・コーラからの出資を得られる可能性があるプログラムでした。Coca-Cola Foundersは、新しい技術やイノベーションの種を早期に発見する意味合いが強いものでしたが、明確な理由は明らかになっていませんが、2016年度に終了が決断され、現在は異業種間プログラムであるThe Bridgeにプログラムを一本化しています。


 このことからも、少なくともコカ・コーラにとっては、プレシード期のスタートアップを支援する起業家ネットワークプログラムCoca-Cola Foundersよりも、異業種のパートナーネットワーク構築によるアクセラレータープログラムThe Bridgeの方がスタートアップとの事業化を図るという観点で有効であると判断していると考えられます。


 今回ご紹介したコカ・コーラ主催のThe Bridgeにターナー・ブロードキャスティング、メルセデス・ベンツがパートナー参加しているように、単一のアクセラレータープログラムの中で異業種の企業が密に連携しながらアクセラレータープログラムを運営しており、結果的に、単独でアクセラレータープログラムを実施していた際には対象にならなかったようなスタートアップとの協業も進んで事業化の範囲が大きく広がっています。


 コカ・コーラのThe Bridgeの事例のように、①異なる業種の企業であっても求めるスタートアップや技術ニーズが近しい。または、②強みや専門性が異なり、スタートアップに対して、お互いが提供できるリソースの幅を広げて貢献し合える可能性がある――企業同士であれば、パートナーネットワークを構築して異なる業種間でアクセラレータープログラムを開催することで、従来の個別企業で実施するアクセラレータープログラムでは対象とならなかったような領域のスタートアップとの協業機会が創出されるなど、オープンイノベーションの取り組み範囲を大きく広げて協業成果を実現していくことが期待できると考えられます。


 プログラムに参加するスタートアップ側にとっても、結果的に協業が実現する可能性が拡がるなどのメリットを享受することができ、アクセラレータープログラムとしての魅力を増すことができる可能性があると言えるでしょう。


 日本国内においては、コカ・コーラのThe Bridgeのような異業種の企業で連携してオープンイノベーションの取り組みを行う事例はまだ多くはありませんが、単独でのオープンイノベーションの取り組みで協業などの成果実現が停滞している企業にとっては、こうした異業種連携のアクセラレータープログラムによる自社だけの取り組みでは実現できなかった領域まで対象を広げていくことも、オープンイノベーションの成果実現の新たな選択肢として検討する価値があるのではないでしょうか。



 ※ベルテクス・パートナーズ イノベーションソリューションメンバーによる本ブログでは、今後のオープンイノベーションプログラムの強化を検討される皆様のお役に立てるよう、蓄積した事例/考察/またはデザインシンキングなど様々なオープンイノベーションに関する取り組みを公開していく考えです。類似の活動やアクセラレーション運営についてご検討されている方は、是非紹介資料のダウンロードもご検討ください。

赤松広康(Hiroyasu Akamatsu)

株式会社ベルテクス・パートナーズ

イノベーションソリューション事業部


 大和証券投資銀行部門でスタートアップの上場準備支援、資本政策支援に従事し、その後、再生可能エネルギー業界において、プロジェクトファイナンスの組成、大手企業・スタートアップ間のアライアンス実務に従事。スタートアップ支援やファイナンス実務の経験をベースとしてイノベーション創出支援や新規ソリューション開発を推進

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