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自前主義からオープンイノベーション推進強化に転ずるJohnson&Johnsonの事例


J&Jが自前主義からオープンイノベーションへ舵を切った理由

  イノベーション先進企業の米医薬品/医療機器/ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)は、毎年多額の研究開発費を投じることで、絶えず新たなプロダクトを世に送り出す事に成功してきた。

 そんなJ&Jが今、スタートアップとの連携に活路を見出している。J&Jが主導する、オープンイノベーションの未来とは?

1.自前主義からオープンイノベーションへ

 J&Jは、毎年実に80億ドルを研究開発(R&D)に投じている。これまで特に、アンチエイジングや睡眠改善といった分野において地位を確立し、安定した収益源としてきた。

 それらの積極的なR&D投資の成果もあり、売上の25%は過去5年間の新規事業で稼ぎ出している。医薬品/医療機器/ヘルスケア業界の変化の激しさを物語る数字だが、同時にJ&Jが絶えず新規事業開発を収益に結びつけている好調ぶりが浮き彫りとなる。

 社内のR&Dから新たな事業を立ち上げる成功のサイクルを確立しているように見えるJ&Jだが、その一方でオープンイノベーションで外部との連携を強化も並行して進めている。

 J&J副社長のJohn Bellは、自分たちで全てを行う事は無理だと理解し始めたと語る。

“What we are learning is that doing everything on your own is no longer possible. "

2.自前主義の限界から生まれたJ&J Innovation

 J&J Innovationは、J&Jのオープンイノベーションを一手に担う組織だ。イノベーションを通して、ヘルスケア分野にインパクトを生み出す事業/製品/サービスの創出を目指している。

 特徴的であるのは、4つの専門組織から成り立つ事だ。インキュベーターとのネットワーク構築を手がける「JLABS/JLINX」。各地域でのトップクラスの研究者、スタートアップ、テクノロジーをつなげる「Innovation Centers」。投資を手がける「JJDC Inc.」。そしてM&Aを手がける「Janssen Business Development」だ。

 ここまで充実した組織形態でイノベーション推進体制を整備している大手企業は、まだ多くはないだろう。

 J&Jは、自前主義による多額のR&D投資に加えて、外部のスタートアップとの連携していくことが、より効果的かつ効率的にイノベーションを生み出せる認識して体制構築を行っている。

 J&J Innovationでは、すでに主力事業となっているアンチエイジングや睡眠改善ではなく、4つの事業テーマを設定しており、その領域は医療機器などのハードウェアから、薬剤、コンシューマーサービス、グローバルヘルスに至るまで多岐に渡る内容となっている。

3.ヘルスケアスタートアップが抱えてきた課題

一方、J&Jが連携を模索するヘルスケア分野のスタートアップは、敷居の低いデジタルアプリ開発などとは大きく異なり、高度な専門性や十分な研究開発環境が不可欠となる。

 そのヘルスケア分野のスタートアップに、最適な研究施設と専門性を用意するのが、J&J Innovationであり、これまでにロンドン・ボストン・カリフォルニア・上海に拠点を設置している。

 J&Jのヘルスケア特化アクセレレータ「Hack Track」のマネージング・ディレクターのTurner氏は、ヘルスケア分野で野心的なスタートアップが増えてきており、かつプロトタイプの開発を経て市場に出す敷居が下がってきている現状を指摘している。

“In the past two cohorts, particularly, we’ve had a huge spike in health care companies and have had some really fantastic applicants,” Turner said.“But things are also getting a lot easier, such as prototyping... which means it’s incredibly efficient to get a medical device or a consumer health device onto the market.”

 そして、ヘルスケアスタートアップと研究施設が集積する都市、中国の深センでJ&Jの新たな取り組みがスタートした。

 自前主義とスタートアップの課題を解決するヘルスケア特化アクセラレータ「Hack Track」 " スタートアップとの連携によってイノベーションを生み出したいJ&J。

 必要な専門性と研究施設にアクセスしたいヘルスケア分野のスタートアップ。そんな両者の課題を解決するのが、ヘルスケア特化アクセラレータ「Hack Track」だ。

 J&Jと連携してプログラムを運営するのは、シリコンバレーと深センに拠点を置くハードウエア特化アクセラレータのHAXだ。Hack Trackでは、毎回15社程度のヘルスケア分野のスタートアップを選出し、4ヶ月のプログラムを年2回運営している。

 事業分野は、女性のスキンケア、子供向けサービス、口内ケアに至るまで幅広いが、基本的にB to Cのコンシューマー向けのサービスを構想するスタートアップが集結している。

 選出されたスタートアップは、拠点を深センに移すことが条件となる。医療施設、研究者との直接のネットワークが、スタートアップの成功を占う上で決定的に重要とJ&Jで認識しているためだ。

 J&JとHAXは、選出スタートアップの株式を持つこととなっており、両社でリスクを共有してコミットした上で中長期のイノベーション創出に挑む体制を整えている。

4.J&Jのオープンイノベーションが実践した「3つの見極め」

 J&Jの取り組みは、オープンイノベーションに取り組んでいる企業事例として、非常に緻密に練られた事例であると言える。オープンイノベーションを銘打ちながらも、具体的な道筋を描けない企業が多い中で、J&J Innovationの取り組みは非常に戦略的だ。

 ここではJ&J Innovationの取り組みを、J&Jが行った「3つの見極め」に注目して整理していきたい。

注力分野の「見極め」

 J&J Innovationは、既存の事業領域にはあえて対象とせず、今後の成長を目指す事業領域に絞って取り組みを推進しており、具体的な4テーマを設定している。

自社と外部の役割の切り分けの「見極め」

 J&J Innovationは、スタートアップへの直接のアドバイスにはリソースを割かずに、外部のアクセラレータを活用しており、アクセラレータとのネットワーク作りに注力している。

自社の必要な打ち手の「見極め」

J&J Innovationは、スタートアップとの具体的な連携の道筋を立てており、研究者との連携、出資、M&A/買収といった手だてをとる事を明示して、必要な体制を整備している。

 これまで、多額の予算を社内R&Dにつぎ込んできたJ&J。従来型のイノベーション創出では、成果が出るか不透明な中で多額のR&D投資を行い、自前でゼロから時間をかけ新規事業創出/新製品・サービス開発を行うことが必要でありリスクが大きい取り組みとなっていた。

 それに対してオープンイノベーションによる新規事業創出/新製品・サービス開発では、既に事業展開しているスタートアップと連携して事業化を目指せるので「スピード」、「リスクの低さ」、「費用対効果」の3点で大きなメリットを享受することができる。

 すでにリスクを取って成果を出し始めているスタートアップを見出し、その事業拡大をサポートしながらその成果を共有して自社の事業拡大/成長に活かしていく。

 自社の中でイノベーション推進組織を持ちつつ並行してアクセラレータを活用してオープンイノベーションを加速するというJ&Jの取り組みは、これからイノベーション推進の組織体制の構築を目指す企業にとって有効なモデルケースになると言えるだろう。

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

INNOVATION SOLUTIONチーム

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 
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