• 中島和哉/Kazuya Nakajima

次世代ゲノム解析スタートアップ創出へ! 研究開発イノベーションエコシステムを加速させるイルミナ


 2014年から、「ゲノミクス(遺伝子解析研究)」という極めて専門性が高いテーマに絞ってアクセラレータープログラムを運営している遺伝子研究世界的大手「イルミナ(illumina)」のスタートアップ連携が加速しています。


 イルミナは、新たな遺伝子解析技術の開発を目指す有望なスタートアップ企業や起業家、ゲノム研究者に対して年2回、6か月間にわたるメンタリングプログラムを実施してきました。その目的は、イルミナの専門的な遺伝子解析システムやシード期の資金面のサポート、研究スペースなどを提供することにより、スタートアップの市場参入の障壁を下げ、早期にゲノミクス関連サービスを事業として世に出すことを目指すものです。


 現在、サンフランシスコで13回目、英国ケンブリッジで3回目となるプログラムと採択チームが決定していますが、2021年秋からは、VC大手「セコイア・キャピタル・チャイナ」とも提携して中国で初のスタートアップ支援プログラムに運営ノウハウとリソースを提供し、中国のゲノミクス(遺伝子解析研究)/ヘルスケア領域のスタートアップ支援にも乗り出します。


 イルミナが対象とする次世代ゲノム解析スタートアップは、遺伝子解析技術による病気に強い農作物の開発など農業分野への応用、疾病特定や診断ツールの開発への応用など、様々な分野での活用を目指します。専門的な知見を用い、そのイノベーションエコシステム構築を主導するイルミナの、唯一無二の取り組みを見てみましょう。


  1. ゲノミクス研究開発へのオープンイノベーション導入とエコシステム構築へ

  2. ゲノム解析スタートアップの参入障壁を下げ、研究開発イノベーションを促進

  3. 中国市場への進出でスタートアップ連携と研究開発のイノベーションを拡大

  4. ゲノミクス領域の研究開発におけるイノベーションエコシステム構築

 ※ベルテクス・パートナーズでは組織内新規事業やイノベーション創出構築を支援しています。本記事に関連した海外スタートアップとや大企業との連携など「グローバルアクセラレータープログラム」の取り組みにご関心の方は、是非お気軽にご連絡ください。

ゲノミクス研究開発へのオープンイノベーション導入とエコシステム構築へ


 イルミナは、遺伝子解析技術の研究や応用実験、癌や生物学の調査などを通じて、ライフサイエンス、農業など様々にサービスを提供している企業です。


 イルミナ・アクセラレーターと中国でのセコイア・キャピタル・チャイナとの提携プログラムを推進するのは「Illumina for Staratups」というプロジェクトで、主要なベンチャーキャピタルや投資家、企業家と連携することで、ゲノム解析スタートアップを成長させてイノベーションエコシステムを構築することに注力しています。


 特に、イルミナ・アクセラレーターは、2014年にイルミナの研究開発施設がある米国サンフランシスコのベイエリアでスタート。2019年には英国ケンブリッジにも展開し、これまでに世界61のゲノム解析スタートアップに投資し、各スタートアップへのVCからの資金調達は計10億ドル以上に達しました2021年9月15日発出プレスリリース時点)。


 応募対象者は、ゲノム研究者、起業家、スタートアップで、有望な次世代遺伝子解析システム等の開発を目指しているシード期のチームです。シリーズAラウンドの資金調達をしていない限り、コンセプトレベルから初期のシード資金調達までサポートするほか、スタートアップの法人化を支援するために法律事務所も探す支援も実施します。

 

 その支援メニューも、事業戦略作成、ピッチ指導、イルミナ社員による専門的なコーチングなどのほか、VCや主要投資家とのミーティングも開催し、日々実験を進めて資金調達に関する評価を得ることになります。特に、選考に関しては知的財産などもさることながら、プロジェクトの事業拡大の可能性、マーケティング戦略などが重視されています。

 

 プログラムの募集は年2回。サンフランシスコとケンブリッジでそれぞれ最大5社が対象となり、カリキュラムは各企業のニーズに合わせて、支援内容もカスタマイズされることをWebサイトなどでも強調しています。


ゲノム解析スタートアップの参入障壁を下げ、研究開発イノベーションを促進


 前述の通り、採択チームにはメンタリングやチームビルディング、シード期の資金援助のみならず、遺伝子解析システムや研究スペースのアクセス権など豊富な専門家の知見と研究機材の利用権が与えられますが、重要なポイントは、あくまで対象は「ゲノミクス」分野での画期的なサービスやソフトウェアなどを開発する初期スタートアップであるということです。


 具体的には、ゲノミクス研究による新しい治療薬、診断技術、農業、生物学、ソフトウェアなどの領域への応用を推進することですが、それらはイルミナが日々研究や実験で知見を蓄積してきた領域であり、採択されたそれぞれのスタートアップにとっても、自分たちの関心領域にフォーカスして事業成長の機会を得ることができるメリットがあります。


 プログラムでは、イルミナの知見を基に、遺伝子解析領域の事業化における特有の参入障壁を下げることでスタートアップのサービスを市場に出やすくし、イノベーションを加速することも謳われています。


 事実、2021年9月に発表された3回目の英国ケンブリッジでのアクセラレータープログラムに選ばれた4社、および13回目のサンフランシスコ・ベイエリアでのアクセラレータープログラムに選ばれた3社の計7社のスタートアップは、精密医療への応用、作物の収益性と土壌改善、気候耐性の強い食品開発など、応用領域は実に様々です。



 以下に、イルミナが支援を決めた次世代ゲノミクススタートアップを紹介します(発表リリース)。


【イルミナ・アクセラレーター ケンブリッジ】

BIXBIO(南アフリカ) https://www.bixbio.com/

 アフリカは、多様な人類の遺伝子のルーツだが、それらの遺伝子の多様性について未解明な部分は多い。アフリカにおける遺伝子解析ツールの開発を通じて、それらの遺伝子データを活用して精密医療の分野を変革することを目指す。


EpiCombi(イギリス) https://www.epicombi.ai/

 最先端のAI技術によるデータ解析に基づいて、すい臓がんや他の難治性癌などの疾病の治療薬開発を行うAI創薬プラットフォームを提供する。


Genegoggle(ポーランド) https://www.genegoggle.com/

 DNAの三次元構造をVRで視覚化してDNA断片間の距離測定を行ったり、DNA、RNA、タンパク質などの相互作用を実験データから可視化することができる「バイオインフォマティクス」などのテクノロジーを活用。がん細胞に選択的に結合する分子を創出するソリューションの提供によって、精密医療や様々なバイオテクノロジーソリューションへの応用を目指す。


NewStem(イスラエル) https://newstem.com/

 再生医療やがん研究において重要な役割を果たす半数体のヒト多能性幹細胞に焦点を当てたバイオ医薬品企業。独自技術に基づいて、がん治療や診断に関する製品を開発する。



【イルミナ・アクセラレーター サンフランシスコ・ベイエリア】

ImYoo(アメリカ) https://www.imyoo.health/

 採血キットによって特定した個人の免疫機能を基に、似たような免疫機能を持つ人々を結び付けて、今どのような健康状態にあるかの情報を共有。遺伝子データや生物学に基づいて、個人に最適化された健康に関する情報を提供することを目指す。


Solena Ag(メキシコ) https://www.solena.ag/

 土壌中のバクテリアや菌類などの微生物の土壌生物多様性をBiological Capital(BC)として測定し、農作物への影響に合わせて土壌改善につながる(微生物などの)土壌生物多様性を改善して作物の収益性を改善するバイオテクノロジー企業。


Yali Biosciences(アメリカ) https://www.yalibio.com/

 合成生物学と遺伝子解析技術のツールを組み合わせて、再生可能な原料から気候や生態系に配慮した持続可能な食品を製造するプラットフォームを構築。



中国市場への進出でスタートアップ連携と研究開発のイノベーションを拡大


 2021年に入って表明された「Illumina for Staratups」の意欲的な取り組みの一つが、イルミナ・アクセラレーターの運営ノウハウを、中国のゲノム解析/ヘルスケアスタートアップに応用展開する取り組みです。


 VC大手「セコイア・キャピタル・チャイナ」と全面連携して、2021年秋から稼働する予定で、その名称は「Sequoia Capital China Intelligent Healthcare Genomics Incubator, Powered by Illumina」


 イルミナのプレスリリースによると、ライフサイエンススタートアップを対象とする中国でのプログラムも、基本的な機能はイルミナ・アクセラレーターと同様です。1年に2回、6か月間のサイクルでスタートアップ企業を支援し、イルミナの遺伝子解析システムやゲノミクスの専門知識、上海での研究拠点の提供、提携しているセコイア・キャピタル・チャイナからも投資と事業戦略に関するブラッシュアップが行われます。


 企業が運営するアクセラレータープログラムの傾向としては、スタートアップ関連のネットワークや運営ノウハウを手に入れるために、初期は「テックスターズ(Techstars)」や「プラグアンドプレイ(Plug and Play)」など、豊富なメンターや投資家とのネットワークを持つアクセラレーターと契約して運営を担ってもらうことが多く見られますが、事業会社がそのメンタリングプログラムの機能提供をする例は少なく、ゲノミクス領域におけるイルミナの実績と専門知見の魅力が際立っていることを物語っています



唯一無二のゲノミクス研究開発におけるイノベーションエコシステム構築


 イルミナ・アクセラレーターの立ち上げが最初に表明された2014年2月12日のプレスリリースには、イルミナの当時の上級副社長兼最高技術責任者(CTO)、Mostafa Ronaghi(モスタファ・ロナギ)氏の次のコメントが掲載されています。

 

  “The dramatic reduction in the cost of sequencing has enabled the scientific and business communities to address an increasingly broad range of research and clinical opportunities. We’ve only begun to scratch the surface, however, and we’re excited to foster the next generation of genomics innovators working in areas as diverse as agriculture, forensics, consumer genetics and diagnostics. The Illumina Accelerator Program will make it easier for them to validate and create NGS applications and bring these solutions to market,
 (「遺伝子配列解析のコストが劇的に削減されたことで、科学界やビジネス界は、ますます幅広い研究や臨床の機会に取り組むことができるようになりました。私たちは、農業、科学捜査、消費者遺伝学、診断学などの多様な分野で活躍する次世代のゲノミクス・イノベーターを育成することに興奮しています。イルミナのアクセラレータープログラムは、彼らが次世代遺伝子配列解析システムのアプリケーションの有効性の確認と構築及び、これらのソリューション市場に投入することを容易にします」)

 イルミナのプログラムは、当時から「ゲノミクス業界向けのイノベーションエコシステムの構築に焦点を当てた世界初のビジネスアクセラレーター」と謳っており、市場投入までのスピード化やスタートアップ企業の参入障壁を下げる理念を含め、その手法/提供リソースはほとんど変わっていません。そのスタートアップ本位の姿勢と専門知識を活かした腰を据えた取り組みが、名実ともにゲノミクスのイノベーションエコシステムを構築し、着実に拡大してきたと言えます。

 

 日本企業が主催するアクセラレータープログラムには、募集テーマを広めに設定することでスタートアップとの期待した成果が出ずに単年度で終了したりするケースも散見されますが、イルミナのように、イノベーションエコシステム構築のビックピクチャを描き、自らの専門領域と対象スタートアップを明確にして惜しみなくリソースを提供することが、スタートアップの理解と評判を得て、長期的な企業の発展にもつながるヒントになるのではないでしょうか。


 ※ベルテクス・パートナーズでは組織内新規事業やイノベーション創出構築を支援しています。本記事に関連した海外スタートアップとや大企業との連携など「グローバルアクセラレータープログラム」の取り組みにご関心の方は、是非お気軽にご連絡ください。

〈文・構成〉

中島和哉(Kazuya Nakajima)

株式会社ベルテクス・パートナーズ イノベーションソリューション事業部


 毎日新聞社での政治部、経済部の記者として10年超の経験を経て、社内公募ベンチャー制度の創設/推進に従事。その他シードアクセラレータープログラム運営と投資経験をベースに、イノベーションプログラムの設計・運営のプロフェッショナルとしてイノベーション創出支援を推進。


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