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  • 執筆者の写真東條貴志/Takashi Tojo

RPAの次はナレッジワークの生産性向上。Narrative ScienceのAIソリューション


単純作業の生産性向上からナレッジワークの生産性向上へ

 ホワイトワーカーの生産性向上に向けた取り組みとして2000年代からERPなどのエンタープライズソリューションの活用により、多くの業務のIT化が進められてきました。

 その一方でそれらのシステムへの入力業務やデータ抽出、整理を行う業務が新たに発生し、そこに多くの人員や工数が割かれて長時間の業務が発生していました。

 従来のシステムで自動化ができていなかった、それらのヒトが対応している業務を自動化するソリューションとして2017年からRPAの急速な普及が進み始めています。

 RPAが自動化できる業務は、完全に定型化/ルール化された単純作業が対象であり、その範囲内では圧倒的なスピードで作業を自動化することで生産性向上を図ることができますが、ヒトが考えたり、判断したりするような業務の生産性向上を実現できてきません。

 引き続き単純作業の自動化を行うRPAの普及は続いていくと思われますが、その次の段階として定型化が困難なナレッジワーカーの分析や判断を伴う業務の生産性向上を実現するソリューションが求められていくと思われます。

 その先駆けと言えるソリューションが米国のNarrative Science社により既に提供されています。

1.Narrative Scienceのナレッジワーク生産性向上のアプローチ

Narrative Science社は2010年にシカゴで設立された自然言語生成(NLG)の技術を活用したソリューションを提供するAIソリューションベンダーです。 Narrative Science社では自社の自然言語生成アルゴリズムをAdvanced NLGと呼んでおり、同社ではQuillと呼ばれるAdvanced NLGのAIプラットフォームを提供しています。

 様々なデータにQuillのAIエンジンにより自動でヒトの言葉で説明をつけて、様々なデータから読み取れることを迅速に理解するサポートを行うソリューションとなっています。

 日本国内でも企業が公表する決算データのサマリー自動作成/配信やスポーツでのスコアや実況内容からリアルタイムにプレー内容のサマリー自動作成/配信を行うNLG AIソリューションが登場しているが、Narrative Science社のQuillでは、より幅広いビジネスデータを対象に自動でサマリーをつけることができる仕組みを提供しています。

 同社のソリューションを利用している顧客もCredit SuisseやAmerican Century Investments、USAA(米軍人やその家族向け専門の金融サービス事業)などの金融系の事業会社やDeloitte、PWCなどのプロフェッショナルファームが名を連ねており、従来ヒトが行っていた情報収集/データの要約をAIに任せることで、データの理解と解釈にヒトが注力することで生産性を高める取り組みを進めています。

 また、パートナーとしてMicrosoftやTableauなどのBIツールを提供する数多くのベンダーとも連携しており、各BIツールのデータをまとめたダッシュボード上で、データについての概要/解説をNarrative Scienceの 自動生成して表示をさせることができるようになっており、BIツールのデータの整理/見える化といった機能を、AI活用により言葉によるデータの要約で解釈を容易にすることで広くナレッジワーカーの生産性向上につなげるソリューションを提供しています。

2.Narrative Scienceのソリューションの具体的な活用事例

 Narrative Scienceのソリューションは、金融、プロフェッショナルサービスに多くの例を持つサービスですが 例えば、米国バージニア州に拠点を置く自動車販売店向けにCRMソリューションAutobase Dealer CRMを提供するDominion Dealer Solutionsでは、Narrative Scienceとの契約により、StoryBuilderというソリューションを開発しています。

 Narrative Scienceと構築したStoryBuilderにより、各車両のユーザーレビュー、Kelley Blue Book、CARFAXなど米国のさまざまな車両情報を提供する情報ソースから集められた車両のモデル、走行距離、性能などのデータに基づいて、取り扱い車両の説明をQuillのAdvanced NLGのAIエンジンにより自動で生成してユーザーに情報提供しています。

 これらの機能を活用して車両情報提供をオンラインで行った際には、中古車情報の提供が従来のヒトが車両情報を調べて車両に関する説明を作成して情報掲載を行っていた従来の方法に比べて、圧倒的に迅速かつ正確に車両情報の提供できるようになり、従来の車両情報提供ページに比べて、50%以上のPV増を実現しています。

 また、上記の成果に加えて、ヒトが時間をかけて情報収集/まとめ/車両情報作成を行っていた時間を確認作業のみとすることができるため、企画や販売などの売上を作るための業務にリソースシフトができるようになったことも大きな成果になると考えられます。

3.AI活用による次のステージの生産性向上の取り組みの可能性

 単純作業の生産性向上はRPAの普及拡大により、企業規模を問わず進んで行くことになると思われるが、ヒトによる情報の解釈や判断を伴うナレッジワーカーの業務の生産性向上を図るソリューションが次に求められる領域になっていくと思われます。

 現時点では単純作業におけるRPAのような決定打となるソリューションはナレッジワーカーが取り組む業務領域では登場していないが、業務の全てを自動化は難しいものの、ナレッジワーカーの業務を遂行するための情報/データの解釈や判断を行うための準備作業を自動化するソリューションが求められるでしょう。

 現状では前述のNarrative ScienceのQuillのような、ナレッジワーカーが取り扱いに格闘している大量雑多に集まる情報/データを解釈・判断しやすいようにまとめることを自動化していくAIでの自然言語処理/自然言語生成を活用したソリューションが当面のナレッジワーカーの生産性向上を実現する有力なツールとなるのではないでしょうか。

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

 

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