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インセプションデッキとは?新規事業プロジェクトのWhy/What/Howを明確にする方法。
こんにちは。イノベーションソリューション事業部の袖山です。
今回は新規事業プロジェクトのWhy/What/Howを明確にするためのインセプションデッキについて紹介していきます。
10回に1回程度しか成功しないと言われている新規事業。
うまくいかない要因は様々あると言われていますが、人に起因する原因が多いことはあまり知られていません。
新規事業を立ち上げる際には様々なプロフェショナルなメンバーを集めて行うことになりますが、メンバーそれぞれの価値観や考え方が異なるためトラブルが頻発します。
同じ事業について話しているはずなのに、なぜか話が噛み合わない
目指しているゴールは同じはずなのに、手段の議論で不毛な擦れ違いが発生する
メンバー間にモチベーションの差が生まれる
知らない間にメンバーに不満が溜まっていることがある
チームが機能不全に陥る
これまでにこうした課題に直面したことがある新規事業開発のリーダー、プロジェクトメンバーの方に向けて、アジャイル開発で使われるエレベーターピッチを活用する方法を紹介します。
インセプションデッキをうまく活用することができれば、
プロジェクトで目指すべき目標を全メンバーが相違なく認識し
メンバーが高いモチベーションを持って自発的に動ける環境を整え
効率的にコスト・期限・品質をクリアした成果を出す
そんなことができるようになります。
インセプションデッキとは
インセプションデッキとは、プロジェクトの全体像(Why、What、How)を端的に伝えるためのドキュメントです。ThoughtWorks社のRobin Gibson氏によって考案され、その後アジャイルサムライの著者であるJonathan Rasmusson氏によって広く認知されることになりました。
インセプションデッキの原版はJonathanのブログで「The Agile Inception Deck」にてダウンロードすることができます。2010年に書かれた記事ですが、2021年の世界中のアジャイル開発の現場において活用されているのは興味深いですね。
インセプションデッキを作成する理由
インセプションデッキの意味は、Inception(はじまり)のDeck(ドキュメント)であり、アジャイル開発においてプロジェクト憲章のような役割を果たします。
プロジェクト憲章で有名なものはPMBOKがありますが、これに準じて書いていくとドキュメント作成に多大な時間がかかってしまい、また契約や調達などに関する情報など全てのメンバーにとって重要ではない情報も多く含んでしまうことになります。
そのため不必要な省いたインセプションデッキがアジャイル開発で使われます。
アジャイル開発と似ている新規事業開発
アジャイル開発と新規事業開発は非常に似ています。
複数メンバーが参与するため目線合わせが重要である
メンバー全員に自発性が求められる
ちょっとした不満や歪みが、プロジェクトの破綻に繋がる可能性がある
最初の目線合わせやガス抜きがうまくできていないと、プロジェクトの破綻に繋がる可能性も高いため、インセプションデッキを使って破綻の芽を摘み取っておきたいものです。
もしあなたが新規事業開発プロジェクトチームのリーダーをやっていて、複数のメンバーが参与しているのであれば、インセプションデッキを活用することをお勧めします。
プロジェクトリーダーは最終的に様々な決断や責任を負う必要がありますが、プロジェクトの成否はあなたが優秀なビジネスマンであること以上に、メンバーの自発性やプロフェッショナリズムを引き出し、チームとしての生産性や効率性を引き上げることが重要です。
アジャイル開発チームの特徴として、メンバー間に上下関係を存在させない/監修者的な存在はプロジェクト進行の妨げとなるブロッカーになるので設置しない、というものがありますが、新規事業開発においてもうまく回っているチームはそうしたポイントをおさえているように感じます。
インセプションデッキのテンプレート構成
インセプションデッキは10個のドキュメントから構成されています。
なぜ我々はここにいるのか?
エレベーターピッチをつくる
パッケージデザインで訴求要素を考える
やらないことリストをつくる
ステークホルダーオーディット
テクニカルな確認事項
夜も眠れない問いに取り組む
期限を明確にする
何を諦めるかはっきりする
必要な期間とコストを見定める
上のドキュメントに対して、プロジェクトに参与するメンバー全員がそれぞれ全てを埋めて、比較・議論をした上で合意を得た一つを作り上げるというフローが望ましいです。
といっても上の項目はアジャイル開発のためのものなので、新規事業開発プロジェクトには幾分か不必要な項目が含まれます。
新規事業開発プロジェクトにおすすめのドキュメントは下記の通りです。
Why
・なぜ我々はここにいるのか?
What
・エレベーターピッチをつくる
How
・ステークホルダーオーディット
・トレードオフスライダー
・必要な期間とコストをはっきりする
上にあげた項目の中でも特に重要な、「なぜ我々がここにいるのか」、「エレベーターピッチ」「ステークホルダーオーディット」について説明をしていきます。
新規事業のためのインセプションデッキ・テンプレート
なぜ我々がここにいるのか?
通称「なぜここ」です。プロジェクトに取り組む理由を明確にするドキュメントです。
私たちが使うメソッドは、通常のアジャイル開発のものとは違う「Will-Can-Need」モデルです。通常のアジャイル開発の「なぜここ」よりも、必要な要素が構造化されています。
「やりたいこと」「できること」「人(顧客)から求められること」の3つの輪を持って、プロジェクトの方向性を定義します。
まずは個人レベルで書き下し、次にチームで集まりチーム・企業レベルの上位概念としてまとめていきます。
ここでは少し粗があっても次に進めることが大切です。お互いを知っているメンバーであれば問題ありませんが、初めましてのメンバーが多い場合まだまだ探り探りであることが多く、活発な議論になりにくいことが多いです。
その代わりに、エレベーターピッチを一度やってから「なぜここ」に戻ってきましょう。プロダクト・サービスを定義するエレベーターピッチは具体的な話になるため、話しているとメンバー間の緊張もほどよくアイスブレークされます。その雰囲気の中で「なぜここ」に立ち戻ると内容を詰めやすいです。
エレベーターピッチ
エレベーターピッチとは、プロダクト・サービスを端的に定義するドキュメントです。
プロジェクトの期初では、不透明なことが多いのは仕方のないことですが、できる限りこのドキュメントをメンバーで検討して、目線を合わせることが重要です。
特に「どんな顧客」の「どんな課題」を解決するのか? これについては仮説でもいいのでメンバーひとり一人が真剣に考えておきたいものです。
独自性の高いプロダクト・サービスを作るためには、誰も気づいていなかったような課題を発見することが大切だからです。
詳しい書き方は、こちらの記事にまとめています。
ステークホルダーオーディット
ステークホルダーオーディットは、プロダクト・サービスに関わる全ての人と関係性を図式化したものです。
ステークホルダーは大きく2パターン存在しています。
External Stakeholder: ユーザーとその周辺にいる人
Internal Stakeholder: 社内や提携先といったサービス提供側の人
External Stakeholderでは、プロダクト・サービスの利用者、導入者などを漏れなく洗い出します。
特に注意したいのは、利用者≠導入者 の場合です。
例えば「おむつ」。
利用者は赤ちゃんですが、導入者は親です。製品開発の段階では利用者の赤ちゃんにフォーカスすることは当たり前ですが、導入者である親がどんな悩みや心配事を抱えているかについて予め把握しておくことが重要になります。
Internal Stakeholderでは、社内や提携先といったプロダクト・サービス提供側の人にどんな人がいるのかを洗い出します。
あの部署の部長を巻き込んでおかないと社内提案が通りにくいよね。社内には足りなさそうなリソースがあるから外部パートナーが必要だよな。というように、内部の人間でプロジェクトに関与する重要人物を洗い出します。
複雑な社内事情などは一個人では知りえないことも多いので、メンバーが知見を持ち寄ることが重要な局面になります。
他
「必要な期間とコストをはっきりする(Show What It’s Going to Take)」、「トレードオフスライダー(Be Clear on What’s Going to Give)」については、特にフォーマットは厳密ではないので、本家のアジャイルサムライのページを参考にしてみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
新規事業開発をはじめとしたチームで挑むプロジェクトでは、期初にメンバー全員の目線合わせを行い、各々が自発的に能動的に動ける環境を作り出すことが、プロジェクト推進強いては成否に大きく関わってきます。
これを怠ってしまうと小さな不満がいずれ大きな歪みとなり、ビジネスを始める前にプロジェクト自体が成立しなくなるという事態に陥ってしまいます。
そうならないためにも新しくプロジェクトをスタートする際には、このインセプションデッキを活用することをお勧めします。
また既に進行しているプロジェクトにおいても、なんか最近メンバー間のコミュニケーションがギクシャクしてるな、ちょっとおかしいなと感じる時には、少し立ち止まってインセプションデッキをつかってメンバーのガス抜きの場を意識的に儲けてみるのも有効です。
実際、私が過去に在籍していたメガベンチャーでは、事業部の10〜20人規模のコアメンバーを集めてガス抜きワークショップを提供していました。
効果は数字で測れるようなものではないのですが、ワークショップ後ではメンバーの顔つきはグッと明るくなりますし、事業長からも「やってよかった!目線合わせを定期的にやっていきたい」との感想をいただいていました。
気になる方はインセプションデッキを試してみてください。
イノベーションソリューション事業部では、社内イノベーターを育てるための企業向けのトレーニングプログラムを提供しています。MIT式の新規事業創出手法を取り入れたプログラムの詳細はこちら。
袖山晋(Shin Sodeyama)
株式会社ベルテクス・パートナーズ
イノベーションソリューション事業部
デザインシンキング歴15年以上。クリエイティブファームにてブランディングや新事業開発支援の経験を経のち、ものづくりベンチャーを起業し、プロダクトの大英博物館永久収蔵を実現。その後、楽天ヘッドクオーターにて佐藤可士和氏の下、グループ全体のサービス開発支援、UX・ブランド統一プロジェクト推進。ベルテクスパートナーズでは、デザインシンキングを中核にビジネス、テック、クリエイティブの多角的なアプローチでイノベーション創出支援を推進。
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