企業規模を問わず海外で進むAIのカスタマーサポートでの活用事例

大手企業だけに留まらないカスタマーサポートでのAI活用の可能性

 

  日本国内でも多くのカスタマーサポート向けのAI活用ソリューションを提供するAIベンダーが多く存在しており、コールセンター運営事業者や金融機関など、大規模なCSセンターを持つ事業者向けソリューションや、チャットボットなど数万円/月~数十万円/月程度で導入可能な単機能に特化した小規模なソリューションが普及し始めている。

 

 しかし、社内で小規模に問い合わせ窓口をつけてカスタマーサポートを行っている企業まで適度にフィットするソリューションを提供しているAIベンダーは国内ではまだ少ない。

 

 今回は米カリフォルニア州に拠点を置くDigitalGenius社のカスタマーサポートAIの紹介と、その活用事例から、大規模なCSセンターを持たない企業にとっての、AI活用による問い合わせ対応の生産性向上の可能性を見て行きたい。

 

 

1.米Digital Genius社のヒトから学ぶカスタマーサポートAI

 

 DigitalGenius社は、「Human+AI」というカスタマーサービスのAIプラットフォームを提供しており、導入企業の様々な顧客からの問い合わせ対応履歴からディープラーニングによる学習モデルを構築し、Eメール、チャット、SNS、SMSなどのテキストベースでの顧客対応を自動化、AIのサポートによるオペレーターの対応業務の効率化を実現している。

 

主な「Human+AI」の特徴

 

  過去の問い合わせ履歴を単語ベクトルとして学習モデルを構築

 

  新しい問い合わせに対して、学習モデルに基づき、メタデータを予測/生成

 

  回答を自動生成し、事前設定した予測精度に合わせて自動返信/オペレーターへの確認を実施

 

 

 具体的には、学習モデルの構築に際しては、過去の顧客との対応履歴から、使われている単語を「単語ベクトル(注)」に置き換えてAIは学習し、文章/単語の意味や文脈を理解できるようにさせた上で、顧客からの新しい問い合わせに対する回答を予測/生成している。

 

(注)AIは単語を言葉としてではなく、各単語に数値(ベクトル)で理解している。例えば、「飛行機」という単語には「0.5587,-0,2221,-...」というベクトルを割り当て、統計的に文章に様々な処理を加えられるようにしている。

 

 「Human+AI」はカスタマーサービスに届いたメッセージから問い合わせがどのような内容か学習モデルに基づき予測/整理を行い、問い合わせ対応に適したオペレーターにつなぐことができる。

 

 例えば、航空会社のカスタマーサポートに、「搭乗予定だった飛行機が突然キャンセルになって困っている。明日の午後に大事な会議があるんだ」、というメッセージが来ると、「Human+AI」は問い合わせ内容を解析し、「緊急度:高」、「感情:平常」、「問い合わせ時の状況:旅行当日」、「問い合わせの種類:質問」、「問い合わせ詳細:遅延」といった、付帯情報(メタデータ)を問い合わせに付与し、事前設定した回答精度の基準に応じて自動生成された返信の実施、または適切なオペレーターへの問い合わせ対応指示を飛ばしていく。

 

 問い合わせを受けたオペレーターは「Human+AI」が提示する回答を目視で確認し、問題なければ「送信」ボタンをクリックするだけだ。

 

 追加/修正が必要判断すれば回答内容を修正して返答を行う。 導入企業として、Unilever、BMW、KLMオランダ航空などのグローバルの大手企業も名を連ねている。

 

 

2.【事例】米教育サービスMagooshのオペレーター負担の逼迫解消 

 

 具体的なDigitalGenius社の「Human+AI」の活用事例として米国のオンラインでの学生向け各種テスト準備教材ソリューションを提供するMagooshの事例を見て行きたい。

 

 米国カリフォルニア州に拠点を置くMagooshは、オンラインでGMAT、TOEFLやSATなどのテスト対策練習問題/ビデオ解説などを提供しており、世界185か国の学生が利用している。

 

 Magooshのカスタマーサービスセンターでは、カスタマーサービス/サポートチケットシステムを提供するZendeskを使って、世界中から毎日届く、膨大な量の問い合わせの対応をしている。

 

 一般的な問い合わせに対応するだけでも、900を超えるZendeskの問い合わせ対応アクション(マクロ)から的確なアクションを選択して問い合わせに迅速かつ正確に対応する必要があった。

 

 これらの世界中から集まる問合せの対応を少人数のオペレーターで対応する必要があり、オペレーターにかかる負担が非常に大きくなっておりm問い合わせ対応の品質を維持するために以下の対応をできる体制作りが喫緊の課題となっていた。

 

Magooshの目指す問い合わせ対応

 

  オペレーターの回答精度の向上

 

  各問合せに対する対応/回答時間の短縮

 

  各問い合わせの24時間以内での返信

 

 Magooshの少数のチームにおいてZendeskを活用した対応のみでは、上記目標を達成するのは、困難だったため、問い合わせ対応の自動化/効率化を実現するべく、DigitalGeniusの「Human+AI」を導入した。

 

 

2-1.AI活用で問い合わせ品質向上とオペレーター負担軽減を同時に実現 

 

 従来、活用していたZendeskと、DigitalGeniusの「Human+AI」の連携により、AIを導入したMagooshはオペレーターの人数を増員せずに、業務効率の大幅な向上を実現し、前述の課題解決を実現している。

 

 世界中から集まる問い合わせ対応の83%を「Human+AI」のサポートで対応し、オペレーターは、DigitalGeniusを導入した後では、24時間以内の返信が容易になったと述べる。

 

 さらにDigitalGeniusの特徴としてAIがオペレーターに提示した回答候補が良ければ、オペレーターは回答候補に編集を加え、よりよい内容で問い合わせに答えることで、「Human+AI」は、オペレーターの手によって加えられた回答を学習して回答精度を自律的に高めることで、オペレーターが回答を編集する回数は激減した。

 

 問い合わせ対応の時間短縮の効果として、ユーザーの満足度向上だけではなく、 サービスの解約抑制にも一役買うことができていると想定される。

 

 

3.【事例】米オーダーメイド家具店Joybirdの自動化に向けた取り組み 

 

2つ目の事例は、アメリカ合衆国でオーダーメイド家具を販売するJoybird

 

 オンライン販売をメインとしているにも関わらず、全ての家具は手作りで行われている。そのためカスタマーサポートは、メール、SMS、コンタクトフォームで顧客と綿密なコミュニケーションを取り、要望に合わせた家具作りを行う必要があった。

 

 しかし、毎月8,000件以上もの問い合わせがカスタマーセンターに送られ、12人のオペレーターチームで対応しており業務負担が重たい上に、前事例のMagoosh同様、JoybirdもZendeskを導入していたが、オペレーターはZendeskのマクロ(問い合わせ対応アクション)を利用せず、手動でメールなどから問い合わせに対応しており、非常に効率が悪い状態だった。

 

 それに加えて、オペレーターチームはメール、ウェブフォーム、SMSで問い合わせを受け付け、間を置いて回答を行っていたが、これまでの問い合わせ窓口に加えて、ライブチャットを導入してリアルタイムできめ細かい回答対応で離脱率の低下と購入率向上の実現していくことも検討していた。

 

 この問い合わせ対応の効率改善と、リアルタイムチャットによる顧客サービス向上の実現のために、JoybirdはDigitalGeniusを導入している。

 

 

3-1.AIが問い合わせの70%以上をサポートし業務効率大幅アップ

 

 導入当初、DigitalGeniusのAIがサポートした回答は全体の40%弱だったが、AIによる回答の学習が進むにつれて、回答候補の精度が高まり、最終的には問い合わせ全体の70%以上をAIがサポートするまでになり、このサポート率はまだまだ伸びると期待されている。

 

 さらにAIからのZendeskのマクロ(問い合わせ対応アクション)の提案により、マクロの使用率は、2017年5月の時点で前年比の215%にもなった。多くの問い合わせ対応が自動化されるようになったため、顧客への問い合わせ回答時間の短縮も実現されている。

 

 

4.AIカスタマーサポートの可能性 

 

 今回のDigital Genius社の「Human+AI」の導入事例から見て取れるように、AIは大規模なCSセンターの効率化/コスト削減だけではなく、小規模に問い合わせ対応を内製化している企業にとってカスタマーサポートの生産性向上や、顧客満足度向上など攻めのカスタマーサポートを実現する強力なツールになり得る。

 

 国内に限らず、カスタマーサポートの対応に人員を割くことが難しい企業は多いかと思われるが、今後の国内の人口減少に伴う要員確保の難易度の上昇と、働き方改革で求められる生産性向上への対応として、こうしたAIの活用などによるカスタマーサポートの自動化/効率化は業種/規模を問わず、喫緊の課題であろう。

 

 いきなりのAIツール導入は難しいと思われるが、様々なAIツールが国内でも出始めており、今後のカスタマーサポートの自動化/効率化の可能性模索を、AI活用を想定して進め始めてはどうだろか。 

 

 

 

前の記事へ  BLOG TOPへ  次の記事へ

 

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

AI/INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 

監修者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

 

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

特集記事

RPAの次はナレッジワークの生産性向上。Narrative ScienceのAIソリューション

2018/03/06

1/10
Please reload

最新記事
Please reload

AI/機械学習活用や
イノベーション/新規事業創出/業務改革のご支援についての
サービス詳細やご相談は
下記よりお気軽にお問い合わせください
メールでのお問い合わせはこちらから
info@vertex-p.com