チームのエンゲージメント管理でのAI活用海外ソリューション事例
チームのエンゲージメント管理もAIソリューションで仕組み化が進展
国内において、採用や離職兆候の検知など人事/HR領域でもAI活用を進める企業が増えつつある。しかし、海外ではさらに踏み込んで従業員のエンゲージメントの管理/向上の実現を目指すAIを活用したソリューションの利用が広がっている。
日々の業務のチームメンバーのモチベーションやパフォーマンス管理をマネージャーや人事/HR担当を行うことは現実的に難しく、多い企業でも1回/月の面談やマネージャーが目の届く範囲でメンバーに声がけしながら見ている程度にとどまっているケースも多い。
こうした日々の管理が難しい従業員のエンゲージ管理を見える化し、エンゲージメント向上の施策をマネージャーに助言を自動で与えるソリューションが拡大している。
1.社員の潜在意識を発見するAIソリューション
Glintはカリフォルニア州で2013年に創業され、人事/HRやマネージャーのためのエンゲージメント管理AI搭載プラットフォームを提供し、北米に加えて、ヨーロッパやアフリカでも事業展開を進めている。
Glintのソリューションでは、社員に匿名で日々のアンケートを実施する。Glintはパソコンやタブレット、スマホ等あらゆる電子機器での使用が可能で、アプリにも対応しており、約30秒から1分程度で終わる内容のアンケートに毎日答えていく。
内容は「現在の職場環境がどれだけ快適か」、「職場での自身の評価に満足しているか」などの簡単な設問に回答していき、必要に応じてコメントの記入もできるようになっている。
Glintではこうした社員からのアンケート集計結果をチーム/部門ごとにリアルタイムに人事/HRやマネージャーが管理するダッシュボードに映し出していくことで社員のエンゲージメントレベルを定量的に可視化できるようにしている。
各部門/チームのスコア(エンゲージメント率や満足度、ワークライフバランス、)やコメントを男女別・入社年数別などで詳しくリアルタイムで確認することが可能になっており、これらの集計結果を自動で解析して、部門/チームに組織としてどのような問題があり、どこ改善すべきかといったレポートも自動で出されるようになっている。
それらに加えてGlintの特徴的な点は集めたアンケート結果を基に、マネージャーや人事/HRに対応するべきアクションを提示してくれる点にある。
例えば、チームメンバーのキャリア満足度(現在の役職や配置への満足度、適切な評価がされていると思うかどうか)に関するスコアが低いとすると、AIはキャリア改善のために各メンバーに関する評価基準を見直さなければエンゲージメント率が下がると警告し、なぜキャリア満足度がエンゲージメント率に影響を与えるのかを説明したコンテンツを提示する。
Glintではこうしたデータ解析に基づく必要なアクションの提示をAI活用により実現している。 Glintでは心理学のエキスパートで構成されるチームが最新の組織理論や心理学、行動科学などに基づくAIアルゴリズムを構築し、チーム/部門のエンゲージメントの状況に応じて、的確なアクションにつながるコンテンツをマネージャーや人事/HRに提供している。例えば、アンケートで集めたデータから社員の士気が低下していると判定すると、「モチベーションを上げるためのアクション」に関連するコンテンツを見つけ出し、マネージャーや人事に対策の品としてコンテンツを提示することで改善を促していく。
2.GlintのAIを活用してエンゲージメント向上に取り組むマルケト
マルケトは2007年の創業以来グローバルで6,000社以上にMAソリューションを提供しており、グローバルに多くの従業員を抱えている。 マルケトは従業員エンゲージメントを高めるための取り組みに力を入れており、様々なエンゲージメント調査ツールを使用して従業員からフィードバックを得ていたこともあった。
しかし、組織の状況を的確に把握して対策を講じるためには、従来使用していたツールでは、下記のような問題があり十分に対応ができないと感じていた。
・十分な社員/メンバーのデータを集められない
・潜在的に抱えている課題が把握できない
・リアルタイムで社員/メンバーの状況を把握することができない
・ダッシュボードが見にくい
1年以内に職場環境を向上させるため、人事チームはAIを活用したソリューションの導入を進めることにし、マルケトではGlintを採用することになった。
導入の決め手となったポイントは、日々データを集めることが可能で、見やすいデザインのダッシュボードにより、アンケートから浮き彫りになる社員の意識と潜在的に抱える問題点を確認できるからだ。
各社員にGlintのアプリをダウンロードしてもらい、毎日簡単なアンケートに答えてもらうことで、人事はそれまで見えていなかった様々な問題を把握することができるようになった。 例えば、ある部門/グループに属する社員が業務量の急増によりワークライフバランス崩れて不満を持っていそうだといった潜在的な問題もGlintなら即座に発見でき、必要な対策を迅速に取れるになり従業員のエンゲージメントの低下を防ぐことができるようになっている。
今では必須のコミュニケーションツールとなり、必要なウェブ記事や動画を提示することでマネージャーの人材マネジメント能力強化のツールとしても位置付けられているという。
3.AI活用による人材マネジメントの可能性
従来の人材マネジメントはヒトがヒトを見るということが根底に据えられており、各種人材対応の効率化を進めるということが難しいとされる領域となっていた。
日々のマネージャーによるメンバーへの目配せや1on1ミーティングなどより深くメンバーの業務への取り組み状況や考えていることを理解することが重要ではあるが、日々の変化を万遍なく全メンバーに目を向けて対策を取ることはある程度の規模まで組織が拡大していくと現実的には難しくなってしまう。
そこにこうしたAIを活用した日々のメンバーの状況の把握とエンゲージメントの低下の兆候を把握して対策を迅速に打てるような仕組みを取り入れていくことでよりきめ細かい人材マネジメントを実現することが可能になる。
ヒト対ヒトのコミュニケーションの密度を高めていく取り組みに加えて、こうしたAIなどを活用した仕組み化も組み合わせることが人材マネジメントの効率化/高度化を検討していくことが組織競争力の強化に向けた強い武器となっていくのではないだろうか。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
AI/INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
監修者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。
Comments