食品業界におけるAI活用による品質管理/商品管理の取り組み①

AI導入の取り組みが進み始めた食品/飲料メーカー

 

 

食品/飲料メーカーにおいて研究/企画に関する領域は、従来はヒトの力に頼る部分が多い領域であったが、AI導入活用による取り組みが広がり始めている。海外においてはAIを商品開発/マーケティング/品質管理の一環として取り入れる食品/飲料メーカーが増加し始めており、今回はAIを同領域で積極的に取り組みを進める海外食品/飲料メーカーの事例を紹介していきたい。

 

 

1.味の予測を可能とするGastrograph AIの特徴と仕組み

 

 Analytical flavor Systemは米国ニューヨークに本部を置いて2010年に創業され、食品メーカー向けの人工知能プラットフォームを開発している。チームは科学者やデータサイエンティスト、デザイナーなど多種多様な背景を持つ人材で構成されており、科学的アプローチで主観的な「味」を数値化して客観的に評価できるようにすることを目指している。

 

 彼らが開発するAIプラットフォームは「Gastrograph AI」はPC、タブレット、スマートフォン等のあらゆる電子機器からアクセス可能で食品/飲料メーカーなどの商品開発とマーケティングの効率を上げるために開発された。

 

 「Gastrograph AI」はセンサーを通じて、製造過程で生じる様々なデータ収集を行い、各製造過程で味に影響を与える成分をセンサーが感知し、センサーで収集したデータを基にAIによる味の解析を行っている。

 

 従来の製造工程では、何らかの問題が生じた場合に、その問題の検知までに時間がかかり、対応開始までに時間がかかっていたが、「Gastrograph AI」を使用するとセンサーの検知するデータを基に、過去の学習データに基づいて問題発生を未然に予測できるため、リアルタイム(分析にかかる時間は約90秒)で味/品質への影響を判断することが可能となり、対処をすぐに行うことができる。

 

 例えば、インスタントコーヒー製造の場合、主に焙煎・ブレンド・粉砕の大きく3つの過程で製造されるが、「Gastrograph AI」を使用すると始めの焙煎の段階で、その後の味の予測を行うことが可能となり、リアルタイム(分析にかかる時間は約90秒)で味の評価/判断がなされるため、ブレンド以降の工程の調整による味/品質の維持が従来よりも容易に行うことが可能となる。

 

 さらに「Gastrograph AI」で消費者の求める味を知ることもできる。食品に限って言えば、新商品の95%は発売から3年以内に失敗に終わっていると言われている(参照)。消費者のニーズ/好みは多様化しており、ターゲットとしている消費者の好みに合った味の商品を提供できていないことによる。

 

 「Gastrograph AI」には大量の消費者の味に関する嗜好/好みに関するデータが入っており、それらを活用して自社の投入しようとしている商品がターゲットの嗜好に合致しているのかを評価することもできるようになっている。

 

 Analytical flavor System,incのCEOのJason Cohenはデータサイエンティストであり、紅茶やビールの味の向上を目指し、科学的に味を分析しようと、大学生に紅茶やビールの味の評価を頼んだ。当初はデータが思うように集まらなかったが、ビールを無料で提供し始めたところ大量のデータを集めることに成功している。この時に収集したデータが、現在のプラットフォームに使われている。

 

 また「Gastrograph Reviews」という無料アプリからも、消費者の味に対する好みや嗜好の変化を知ることができるのだ。

 アプリはスマートフォンやタブレットに無料でダウンロードでき、ユーザーは食品の味や食感、製品名などを細かく記録する。膨大なユーザーの記録を、AIがディープラーニングで解析し、理解しやすいようにデータをグラフ化する。アプリユーザーは食べた食品の味の管理/記録ができ、企業は消費者の食品に対する味の評価に関するデータを集められる。

 

 これまで消費者の味に関する嗜好/好みを客観的に知ることは難しかったが、「Gastrograph AI」により味に関する嗜好/好みがデータとして得ることができるようになった。

 

 

2.ビール業界でのGastrograph AIの活用

 

 「Gastrograph AI」は数多くの海外ビールメーカーのビール醸造所に導入されている。

ビール製造は、水や麦芽などの原材料や生産設備など製造工程で接触する菌の有無でさえ味に影響を与え、ビールの命であるアロマと香りを失わせることもある。同じレシピでビールを製造しても、同じ味/品質のビールを商品として出荷するには緻密な管理が必要となる。

 安定した味/品質での生産は徹底した生産管理と職人の経験による味の調整が必要だったがそれらを自動化するべく、各製造工程で設置されたセンサーを通じて温度や出来上がり味の予測を行うことができる「Gastrograph AI」を導入している。

 

 あらかじめGastrograph AIに設定していた目指すビールの味のデータとビール醸造所の製造工程で設置されたセンサーから集まるデータにより予測される味の差異をGastrograph AIが解析し、その際を基に、製造工程での修正を行うことで、複数の醸造所で生産を行う場合でも同じ品質/味のビール作りを容易に実現できるようになった。

 

 Analytical flavor System,incのCEOであるJohn Cohenは「もし、ビールメーカーが5~6つの醸造所を持っているのならば、同じレシピを基にしても5~6種類のビールを作っているということだ。これは自社のブランド価値を下げている(参照)」と言う。

 

「Gastrograph AI」導入によって、ビールメーカーは安定した品質の製品作りを行うことが可能となり、特にアメリカ全土に醸造所を展開する大手ビールメーカーは「Gastrograph AI」の活用により、醸造所による品質/味/香りの差異をなくし、極限まで統一された品質で商品提供できるようになった。

 

 さらにアプリユーザーが記録した味に関する好み/嗜好のデータは、新たなビールレシピ作りにも活用されている。特にビールの香りや味を大きく左右する主成分ポップ選定/配合の検討に関する時間が大幅に圧縮されている。

 

 このような機能を持つ「Gastrograph AI」により、各ビールメーカーは消費者のニーズを満たしたレシピ作りと醸造所の環境によらない品質/味の維持を実現している。

 

 こうした商品開発と品質管理の強化にAIを活用する取り組みが進み始めており、変化の激しい消費者ニーズに対応した商品を迅速に品質を維持しつつ提供して行くことにAI活用を進められるかが競争力を分けることになりつつある。

 

 

 

 

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執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

AI/INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 

監修者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

 

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

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