AI活用で将来活躍する人材採用を効率的に行うHire Vueの事例
AI活用によるビデオ面接での採用活動の効率化
採用におけるAI活用を検討する企業の増加により、日本国内でも人材採用におけるエントリーシートのスクリーニングにAIを導入する事例が増加しているが、さらに一歩進んで面接におけるスクリーニングでAI活用を試みるソリューションも拡大し始めている。
今回はビデオ面接におけるスクリーニングを支援するAIソリューションの紹介と、AI導入により成果を出している2つの海外事例を紹介していきたい。
1.ビデオ面接をAIで解析してスクリーニングを効率化するHire Vue
HireVueは米国に拠点を置くビデオ面接のソリューションなどを提供するHR Tech企業だ。2004年に創業され、大手VCのセコイア・キャピタルやInvestor Growth Capitalが投資を行っている。
現在は世界で600社以上の企業にサービス提供を行い、国内では人材マネジメントソリューションを提供するタレンタが取り扱っており、国内でも大手企業での採用事例が増加している。
Hire VueのAIはビデオインテリジェンスと呼ばれる心理学の成果を反映したAIで、候補者のビデオ面接の様子を解析して、各企業に合ったポテンシャル持つ人材を見つけ出すことができるソリューションとなっている。
具体的には、候補者はあらかじめ設定された質問事項について、PCやスマホ、タブレット等デバイスを限定せずに、ビデオ面接で回答を行う。
候補者は企業まで向かう必要がなく、自宅でリラックスして面接を受けることができる。
書類選考後の初期選考で個別に面接官の時間を押さえる必要がなくなり、人事も時間の制約なくいつでも候補者が答える様子を確認することが可能になっている。
ビデオ面接に対して、産業・組織心理学のトップ心理学者監修の下で評価基準が設定されており、Hire Vue のAIにより、候補者の声や言葉のチョイス、イントネーション、表情の動きや仕草などを解析し、スコアリングを行っている。
さらに既存の優秀な社員のパフォーマンスデータや過去の面接の記録も活用して解析を行うことで、候補者が将来活躍できる可能性もスコアリングできる仕組みを備えている。
Hire VueのAI活用により、面接担当による選考の評価方法に対する偏りを取り除いて客観的な評価を行うことができる。
ビデオ面接により、エントリーシートだけでは分からないコミュニケーション能力などを対面で面接を行う前に評価することができ、適性のない候補者を事前にふるい落とすことができ、候補者、面接官の双方にとってミスマッチを事前に減らすことができる仕組みとなっている。
2.世界で採用を行うヒルトンホテル人事部の課題
世界各国で展開するヒルトンホテルのミッションは、世界一のホスピタリティを提供する企業作りであり、目標達成のためにも優秀な人材をグローバルで発掘し続ける必要があった。
ヒルトンの人事チームが抱える問題は、グローバルで数多くの新たなホテルを建設しており、毎年数千名のスタッフを採用しているため、応募してくる候補者は何万人にもなり、人事は莫大な時間を採用面接にかける必要があった。
少しでも面接にかける時間を削減し、効率性を高めたかったヒルトンは、ビデオ面接の導入を検討し、Hire Vueの導入を決めた。Hire Vue導入前は、ヒルトンの人事チームはすべて回答するには1時間以上もかかる100以上にも及ぶ質問への回答を候補者に課して書類選考を行い、その後さらに面接も複数回実施しており、採用決定までに平均して6週間もかかっていた。
3.ヒルトンのAIによるビデオ面接導入の成果
Hire Vue導入後、ヒルトンの人事チームはHire Vueの心理学者チームとパートナシップを結び、同社のAIビデオ面接活用による面接プロセスの見直しを実施して、複数回行っていた面接をPre-Employment Testの導入で、1回のビデオ面接にまとめて大幅に採用期間を短縮することに成功している。
このPre-Employment Testでは、主に個性、社風との相性、将来の活躍の可能性、対象職種に関するスキルをビデオ面接で評価できるように設計している。
候補者のビデオ面接での回答やイントネーション、表情をAIで解析し、候補者の評価結果をスコアリングして、活躍が期待される候補者の特定が行えるようになっている。
人事チームはAIによる分析結果をもとに、効率よく次のステップへ進める候補者のスクリーニングを行っている。
ヒルトンではHire VueのAIを活用したビデオ面接に導入により、大幅な採用効率の向上を実現し、平均で42日間かかっていた採用までの期間が最短5日まで短縮、面接によるミスマッチが大幅に削減され内定者採用率が前年比42%増という成果を実現している。
4.25万人から選抜人材を選ぶユニリーバの人事
ユニリーバは優秀な大学卒業者を採用するべくフューチャー・リーダー・プログラムと呼ばれる通年採用で大学1年生から既卒、修士/博士課程まで幅広く応募できるプログラムを行っており、採用した人材にはOJT中心のプログラムで様々な職種で経験が積める場を提供している。
プログラムの応募者は25万人に上り、その中から800名を選び出している。グローバルで25万人も集まる候補者の選考を行うのは非常に負担が大きく、効率的にスクリーニングを実施するために、Hire Vueの導入を決定した。
従来は優秀な人材の採用はHR担当の経験に頼った選考になっていたが、新たに将来性やポテンシャルでスクリーニングする方法を模索する中、Hire VueのAIが最適な解決策として導入している。
まずはマネージャーとの簡単なビデオ面接を実施し、その後、課題や問題にどう対処するのか、そして仕事観についての質問などに答え、AIによるビデオ面接で候補者の表情や身ぶり、言葉の選択などを解析し、予め学習した25,000人の面接データを比較・分析して候補者を評価し、次のステップに進める候補者を20%まで絞り込んでいる。
この取り組みの結果、採用時間は従来から9割削減され、100万ポンド(約1億5千万円)のコスト削減という成果を実現している。
5.AI活用による採用効率化の可能性
採用においてエントリーシートのAI活用によるスクリーニングだけではなく、面接のAI活用による効率化まで実用化が既に進み始めている。
特にこれまで大量の採用応募者から採用担当者の面接による候補者の絞り込みを行ってきた企業にとって、経験と勘に過度に頼らない有望人材の初期段階での特定と、面接する意義の薄い候補者の初期スクリーニングをAI活用により効率化する余地は極めて大きいのではないだろうか。
今後、優秀な人材の採用競争が激化する中、AIなどのテクノロジーを活用することで採用を進める企業と、そうではない企業で大きく採用成果の明暗が分かれていくことになるのではないだろうか。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
AI/INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
監修者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。
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