AIによる自動化を目指す独メルクのサプライチェーン・マネジメント

AIによる自動化の試みが本格的に始まったサプライチェーン・マネジメント

 

 需要予測から生産計画まで一気通貫でサプライチェーン・マネジメント(以降SCM)の自動化については、これまでも多くの企業で試みがなされてきたが、一連のサプライチェーンから集まるデータに基づく各種判断の自動化は現実的には十分に実現できているとは言い難い状況が続いていた。

 

 様々な要因があるが、その原因の一つとして、今日のサプライチェーンが、複雑化する製造/流通構造や製品ライフサイクルの短縮などによって著しく変化していく中で、従来のルールベースのSCMソリューションではそれらの高頻度な変更に対応しにくく、サプライチェーンの実態に即した対応が困難だったことにある。とくにグローバルレベルのサプライチェーンにおいては、そのギャップが顕著となっている。

 

 また、別の要因として、生産設備のセンサーから収集されるデータや、物流、販売における在庫管理、製品管理のためのRFタグから集まるデータなど、サプライチェーン上の各種データ収集コストの低減と収集範囲の拡大により取り扱うデータ量と種類が幾何級数的に増大し、従来のソリューションで取り扱える許容量を超えてしまったことも一因となっている。

 

 収集したデータを全て活用できずに、データサイエンティストを活用してもサプライチェーンの実態を反映した適切な分析/判断ができなくなり、SCMの自動化が実現できずにいた。

 

 しかし、現在はAIアルゴリズムの進化と、大規模な分散コンピューティングにより、大量データを活用するSCMの自動化も、現実味を帯びてきた。

 

 

1.メルクが目指すAIによるSCMの完全自動化

 

 ドイツの製薬会社大手メルク(Merck KGaA)は、SCMの完全自動化という目標を掲げてSCMでのAI活用の取り組みを進めている。

 

 市場の変化に対して、素早く自律的に反応する「AIによる自律的サプライチェーン(Self-Driving Supply Chain)」の実現を目標としている。

 

 CIOのアレッサンドロ・デ・ルーカ氏はP&Gでロジスティクスとイノベーションに13年以上関わった後、2011年にメルクに転じ、SCMの自動化に向けた取り組みを始めている。

 

 それまでのメルクのSCMは、担当者の分析に基づくルールに経験と勘を加えたルールに基づく管理が行われていた。しかし、需要計画を作成にAIを用いるパイロットの結果から、AIを活用した需要予測アルゴリズムは、担当者による分析よりも80%以上高い精度で地域別の需要予測を実現するという結果が得られた。

 

 それならば、需要予測はAIに任せ、ヒトはより戦略的な役割を担うべきだと、デ・ルーカ氏は考えた。 2017年3月、メルクは需要予測と需要対応能力を強化し、「完全自動化に向けての第一歩」と位置付けてSCMの自動化の検討を開始した。

 

 その目指す目標は人による分析に基づくSCMから、AIによるリアルタイム/継続的なデータ解析とそれに基づく自律的な判断を行う、AI SCMへの移行である。

 

 生産状況を把握するための生産設備へのセンサー設置による各生産工程における生産進捗の管理と、生産計画/物流についての各種判断を収集データに基づいて自動化し、需要予測から一気通貫で自動化を実現するアルゴリズムの実装を進めている。

 

 メルクはこれらの仕組みを通じて、注文から納品の極限までの期間短縮実現を目指している。通常時の対応だけではなく、季節要因による需要変動や、自然災害による生産中断にさえも対応できるようなサプライチェーンの確立まで実現することを目標としている。

 

 

2. 生産効率を正確に把握するアエラ・テクノロジーのSCMソリューション

 

 メルクはこのAIベースのSCMの実現に当たり、アエラ・テクノロジー (Aera Technology)のソリューションを活用している。

 

 アエラ・テクノロジーは、AI活用による様々な業務の「自動化」を実現するソリューションを提供する企業で、エンタープライズシステムや外部データソースから膨大なトランザクションを捉えてインデックスを作り、分析のためのデータを蓄える「データ・クローラー」、収集したデータを一元的に処理する「プロセッシング・エンジン」、リアルタイム分析を行う「アナリティクス・エンジン」などのソリューションを提供している。

 

 メルクではAIによって「自動化」されるSCMを実現するためのキーとなるソリューションとして活用している。 例えば、納期回答 (ATP)においてアエラのソリューションを使うと、「サプライチェーン・マップ」をリアルタイムで生成し、製品の割当量や配達予定日なども含めて、注文についての全ての情報をマップ上に表示することができ、マップ上でボトルネックになり得る工程を探したり、サプライヤーによる納期や料金をシミュレーションできることで最適なサプライヤーを検討が可能になっている。

 

 さらに機械学習により、従来のソリューションでは対応できなかった多くの変数を活用して大量のデータをもとに複数のモデルを組み合わせた予測ができるようになり、従来のルールベースでの納期予測よりも正確な予測ができるようになった。

 

 さらにアエラのソリューションのダッシュボードには、サプライチェーン各層のKPIが、リアルタイムに表示されている。そこには、生産設備に付けられたセンサーからのデータや、ERPなどの既存基幹システムからのデータも集められ、SKUごとに生産状況や在庫状況を一元的に把握することができる。

 

 こうして集められたデータをもとに、サプライチェーン全体の生産効率がより正確に把握できるようになり、必要な打ち手の判断が迅速にできるようになっている。

 

 これらのSCMソリューションに加えて、ビッグデータ企業のパランティアテクノロジーズ(Palantir Technologies) とも提携し、サプライチェーンにおける予測データの活用強化を図ることで、医薬品デリバリーの期間短縮とコスト削減も並行して進めている。

 

 このパランティアテクノロジーズのソリューションを活用して、気象、自然災害、伝染病の流行、メルクグループ製品を取り扱っている薬局の販売計画などの外部情報も取り込み、医薬品の需要予測を行っている。

 

 長期的には、パランティアのビッグデータ分析とSCMソリューションを連携させることで、グローバルな需要予測を実現し、完全な「サプライチェーンの自動化」を目指している。

 

 

3.SCM完全自動化と取引先まで含めた見える化の可能性

 

 メルクは、資材調達先や取引先に対して在庫と需要予測の透明性を高めることが、より無駄のないサプライチェーンに近づいていくことができると考えており、前述までのソリューションによるリアルタイムで得られる需要予測データを、すべての取引先とも共有していこうとしている。

 

 かつてはCPFRなどの概念でSCMの一気通貫での自動化を目指す動きがあったが、本当に実現できるソリューションがなく、多くは掛け声倒れとなり、需要予測と物流・生産管理は別々にソリューションが進化を続けてきた。

 

 これまで担当者の分析に基づくルールとチューニングをベースとしていて各種予測/最適化が、AI/機械学習により、サプライチェーンの各層で発生する様々なデータを活用してヒトでは解析が現実的に困難な数の変数として予測を行うことができるようになっている。

 

 メルクのように本気でSCMの完全自動化の実現を目指す企業も出てきており、サプライチェーンの実状を反映した解析は一朝一夕に実現できるものではないが、かつて実現できなかったSCMの完全自動化をAIが現実のソリューションとするのも遠くないタイミングだろう。

 

 とくにかつてCPFRなどで完全自動化を検討した企業にとっては改めて、検討を始める時機が訪れつつあるのではないだろうか。

 

 

 

 

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執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

AI/INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

 

監修者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

執行役員パートナー 東條 貴志

 

スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。

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