中国で急速にプラットフォーム化が進む画像認識AI/音声認識AI
中国政府の後押しを受けてプラットフォーム化が進む画像認識/音声認識AI
中国では、社会インフラや企業のビジネスにおいて、スタートアップが開発した画像認識や音声認識のAI活用が政府の後押しもあり急速に進んでおり、銀行での現金引き出しでも実用されている顔認識AIのYITUや、音声認識AIでリードするiFlytekの事例を見て行きたい。
1.中国政府による強力なAI開発の後押し
中国政府は、中国AI産業を世界一に押し上げるための国家戦略として、2017年7月に発表した「次世代AI発展計画」にて、2030年に中国のAI産業をグローバルでトップレベルに引き上げるべく3つの戦略ステップ(3段階目標)を打ち出している。
さらに2017年11月、中国科学技術部は、次世代AI発展計画推進弁公室を設立し、4つのAI領域をリードするプラットフォーム企業を第1期国家次世代AI開放・革新プラットフォームとして選定し、政府による支援強化を打ち出している。
医療 Tencent(騰訊)
スマートシティ Alibaba(阿里巴巴)
自動運転 Baidu(百度)
音声認識 iFlytek(科大訊飛)
そのようなAI産業強化の流れの中、画像認識/音声認識において、大手だけでなく有力な先進技術を開発したスタートアップも育ってきている。日本では、個人情報漏えいなどのリスクを恐れて、なかなか適用が進まない領域についても、中国国内では大胆な実用化が進んでおり、その豊富な実績を持って、複数の企業が海外にも進出しつつある。
2.YITUの顔認識AIのプラットフォーム化
YITU (依图) は、2012年に上海で設立された20億人の顔画像から数秒で特定の個人を認識できる最先端技術を活用した画像認識プラットフォーム「YITU Dragonfly Eye」を提供している画像認識AIのトップ企業だ。
中国では、監視カメラのネットワークが全土に張り巡らされており、設置済み監視カメラは1億7,000万台、2020年までに4億台に増やす計画を立てている。「YITU Dragonfly Eye」のプラットフォームは中国政府の持つ外国人などを含む18億人強の写真DBと連携しており、監視カメラで捉えた顔画像は、YITUの顔認識システムによって即座に個人特定される。
中国で20以上の省の公安庁、その傘下の市の公安局で導入されており、多くの犯罪者の検挙に成果を上げている。 こうしたシステムは、海外においてプライバシーの問題が取り沙汰され実現が難しいが、中国ではむしろ治安重視で一気に導入が進み、そこでの活用実績から認識技術向上へのフィードバックが可能になっている。
セキュリティ領域での実績を基に、最近では、医療、金融などの他領域でも成果を上げている。金融分野では、「YITU Dragonfly Eye」の顔認識技術を活用して顔認識による現金引き出しまで実用化している。
広東省深圳に本社を置く、中国金融最大手の一角を占める招商銀行では、2016年末から顔認識システムを導入し、約1,500の支店で、銀行カードや通帳を用いずに、「顔」による認証とPINコードの入力だけで現金が引き出せる。
認識精度は極めて高く、よほどの厚化粧か整形手術を施さなければ、間違いがなく現金引き出しが行われる。YITUも、これまで誤った現金引き出しは一度も発生していないとしており、同システムは、他にも中国の銀行数行で導入されている。
こうした中国政府による後押しでデータを集めてプラットフォーム化が進められているのは、画像だけではなく、音声認識においても政府の後押しによるサービス開発が進んでいる
3.iFLYTEKの音声認識AIのプラットフォーム化
iFLYTEKは、1999年に設立された合肥に拠点を置く中国での音声認識、音声合成、自然言語の理解、声紋認識、手書き認識などの認識技術AIのリーディングカンパニーで、クラウドのプラットフォームを構築して、IFlyDictation、iFLYTEK Voice Touch、Lingxi Voice Assistant など、多数の音声サービスを提供している。
第1期国家次世代AI開放・革新プラットフォーム名簿にもTencent、Alibabaなどとともに名を挙げられている。
iFlytekは中国語に特化した音声認識技術を進化させ、中国語の自動翻訳精度を、97%にまで引き上げた。iFlytekの音声認識AIは、カスタマーサービス、医療分野など幅広く利用されている。
iFlytek躍進の裏には、YITUの事例と同じように、中国政府の強力な支援がある。中国語のスピーキングテストの音声データを集めることを中国政府が決定し、そのビッグデータを元に、標準的な中国語を話せるかどうかを判定するための音声認識器を開発したのがiFlytekの始まりでこのデータを元に、音声認識AIの精度を向上させている。
今では、大学入試の英語スピーキングテストの採点にも使われているという。
昨今では、この音声認識技術を生かしてiFlytekは、積極的に自動車メーカーとの提携を行なっている。2017年8月、iFlytekは運転手向けの音声アシスタント Xiaofeiyu (Little Flying Fish)を発表した。安全運転のために、画面やボタンを使わないで操作することを目指し、インターネットや運転手のスマートフォンに接続すると、電話、音楽再生、経路検索、レストラン検索を音声でおこなうことが可能となる。
家庭内で利用する音声アシスタントとは異なり、Xiaofeiyuはクルマで利用することも想定し、雑音が混じる環境でも音声認識可能であるよう設計されている。 その後、iFlytekと中国国有自動車メーカーは、次々と提携を行ない、2017年11月には北京汽車はiFlytekと戦略的事業共同契約を交わしている。
音声認識AIに留まらず、AI技術やビッグデータ分析、スマートカー・ネットワークプラットフォームなど多岐に渡る分野で、全面的な協業を行なっていく予定だ。
さらに、トヨタやホンダの提携先でもある広州汽車とも、次世代の自動車開発に向けて、iFlytekと音声認識分野で提携を行っている。広州汽車は、車と運転手や同乗者との間のコミュニケーションのために、開発中のスマートカーにiFlytekの音声認識を活用する。
中国向けのスマートカーを開発する際に、iFlytekの音声認識AIがデファクトとなる日も近いかもしれない。
4.プラットフォーマーなき日本でのパートナー選択
中国において、YITU、iFlytekいずれも中国政府の大きな後押しを受けて、多少のプライバシーを犠牲にした形でもデータを獲得してサービスをプラットフォームと呼ぶべきレベルまで強化してきている。
一方で、日本国内において同様のアプローチを行うことはできないが、領域を特化して強みを発揮して、特定の領域ではプラットフォーマーに近い形でサービス提供を行おうとしているAIベンダーも見られるようになってきている。
今後の自社でAIソリューションの活用に取り組む際には、組むべきパートナーを判断していく上で各領域におけるデファクトになり得るAIベンダーの探索と見極めを行うべく、各ベンダーのソリューションと技術を継続的にウォッチしていくことが必要になる。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
AI/INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
監修者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。
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