世界の電力8社が参加するイノベーションプロジェクト「Free Electrons」の事例

世界の電力8社がタッグを組んだ電力革新プロジェクトがスタート

 

  シンガポールの電力会社「Singapore Power」が、世界の電力ビジネスのイノベーション推進を担うスタートアップを支援するプロジェクト「Free Electrons」をスタートさせると発表した。

 

 プロジェクトには、世界の電力大手8社が参加する世界に他に例を見ない規模のアクセラレータプログラムは、いかにして実現したのか?

 

 

1.世界40カ国を巻き込む電力イノベーションプロジェクト

 

 参画した電力会社が事業展開する地域は、シンガポールの他に、ドバイ、ポルトガル、アイルランド、オーストラリア、日本などアジア・欧州に事業展開しており、合計で世界40か国、顧客数7,300万人、純利益1,480億ドルの規模となる。未だかつてない、世界規模でのアクセラレータプログラム事例だ。

 

 Free Electronsは、2つの点で、これまでのアクセラレータプログラムと異なる特徴を有する。

 

 一つ目は、これまで国営企業が主に担ってきた公益性の高い領域に、スタートアップの事業を取り込もうと考えている点。

 

 そして、二つ目が、1つの国、地域だけではなく、アジア、欧州、中東の電力会社が連携し、アクセラレータプログラムに取り組む点だ。

 

 電力という公益性の高い領域で、なぜ世界各国の電力会社が共同で行うプロジェクトは実現したのか?

 

 

2.Free Electronsに参加する電力大手8社の顔ぶれ

 

 ここで、「Free Electrons」に参画した、世界の電力大手8社の顔ぶれを見ていこう。

 

Singapore Power(シンガポール)

シンガポールで電力・ガスサービスを手掛ける最大手企業。前身の国営企業が、1995年に民営化された。

 

AusNet Services(オーストラリア)

オーストラリアで電気・ガスを手掛けるエネルギー企業。オーストラリア及びシンガポールで上場。全身は国営企業であり、主にメルボルンの位置するヴィクトリア州を拠点とする。

 

Dubai Electricity and Water Authority (DEWA)(アラブ首長国連邦)

ドバイに拠点を置き、電力、水道サービスを手掛ける国営企業。電力を手掛けていたDubai Electricity Companyと水道を手掛けるDubai Water Departmentが1992年に合併して設立された。

 

Electricity Supply Board (ESB)(アイルランド)

アイルランド国営の電力会社。現在も95%の株式を国が所有しているが、国が指定した企業が徐々に参画するなど、部分的に民営化している。

 

Energias de Portugal (EDP)(ポルトガル)

電力を手掛けるポルトガル最大の企業グループ。2011年には、21.35%の株式を中国企業3社が買収。

 

Innogy(ドイツ)

ドイツのエッセンに拠点を置く電力企業。ドイツのエネルギー企業RWEから分離。再生エネルギー、リテールビジネスに特化しており、2016年にフランクフルト市場で上場。

 

Origin Energy(オーストラリア・ニュージーランド)

シドニーに拠点を置くオーストラリアのエネルギー企業。電力、天然ガスなどを手掛ける。2000年にコングロマリッドのBoral Limitedが買収し、再編が進んでいる。

 

東京電力(日本)

言わずと知れたではあるが、国内最大の電力会社である。

 

 すでに民営化して上場している企業から国営企業まで、業態は様々である。日本からも東京電力が参画するなど各国/地域での最大級の規模を持つ電力会社がこのイノベーションプロジェクトに参加している。

 

 

3.電力業界でイノベーション実現を目指す「Free Electrons」の全容

 

 2017年にスタートするFree Electronsは、グローバルに「公益事業を超えた」ビジネスモデルを模索する事を目的としているイノベーションプロジェクトだ。

 

 主に、レイトステージのスタートアップ企業の先進技術・アイデアを活用して、より高い確度でスタートアップとの協業による新たなサービス/事業を立ち上げ電力業界の中でイノベーションを実現していくことを目指している。

 

 テーマは、クリーンエネルギー、スマートグリッド、IOT・顧客体験やビジネスモデルの改善と、電力業界が抱える共通の課題を解決していくことを目指して幅広いテーマが募集されているが、10億ドル以上の市場規模を見込めるサービス/プロダクトにテーマを限定することで、小粒な事業拡大ではなく、新たな事業の柱となり得る領域創出を目指している。

 

 現在参加スタートアップを募集している段階であり、締切は2017年2月28日までで、4月には、12社の選出スタートアップが発表され、6ヶ月間のプロジェクトに参加する予定だ。

 

 本プロジェクトはNew Energy NexusSwissnex San Franciscoがアクセラレータとして運営し、シンガポール、リズボン、ダブリンの3地域で、それぞれ3週間のマーケティング期間が与えられる。

 

 まず、テストが行いやすい小規模な地域でプロトタイプでの事業性検証を行い、いずれは参加する電力8社のグローバルネットワークで事業展開していく展望が見て取れる。

 

 こうしたマーケティング、販路開拓の機会は、スタートアップにとっては、グローバルでの急速な事業拡大を目指す上で、非常に魅力的なプロジェクトとなるだろう。

 

 

4.各地域の棲み分けが可能にしたグローバルアクセラレータプログラム

 

 通常、こうしたコンソーシアムを組んで実施するアクセラレータプログラムは、1つの国か、多くても2,3か国/地域から参加企業を集めて実施というのが一般的なプロジェクトである。

 

 8か国の電力会社がコンソーシアムを組み、最初からグローバル市場でのテストの機会をスタートアップ企業に与えるFree Electronsは、これまでのアクセラレータプログラムに比べて、対象となるマーケットが非常に大きく、大規模なイノベーション創出が期待されるプロジェクト事例と言えるであろう。

 

 通常、競合企業がコンソーシアムを組んで、イノベーション創出を目指すようなプロジェクトは、互いに目指す事業展開や技術などの手の内を晒すことになる危険性から実現は難しい。

 

 有望なスタートアップがあった場合には、参加企業同士で競り合うことで円滑に協業や出資・買収を進めることができなくなるリスクが懸念される。

 

 Free Electronsが、こうした課題を越えて世界8社の電力会社が参加してプロジェクト化することができたのは、電力業界では競合同士でも、対象とするマーケットが明確に住み分けられており、各社の事業展開する地域で競合する懸念が少ないからである。

 

 地域の枠を超えて、世界の電力大手8社が参加するFree Electronsのようなプロジェクトは、地域ごとに同業企業で棲み分けがなされている競争環境にある業界においてグローバルで参加スタートアップ企業を集め、グローバルに展開できるイノベーション創出を目指す初めての試みである。

 

 新しいイノベーションの形としてグローバルに同業が手を組みあうアクセラレータプログラムが効果を生むものになるのかを見る試金石となる壮大な実験的取り組みといえる。

 

 国内だけではなく、海外の有望なスタートアップの技術・アイデアの取り込みによるイノベーション創出を目指したい企業にとってはその成否を注視する必要があるだろう。

 

 

 

前の記事へ  BLOG TOPへ  次の記事へ

 

 

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

特集記事

RPAの次はナレッジワークの生産性向上。Narrative ScienceのAIソリューション

2018/03/06

1/10
Please reload

最新記事
Please reload

AI/機械学習活用や
イノベーション/新規事業創出/業務改革のご支援についての
サービス詳細やご相談は
下記よりお気軽にお問い合わせください
メールでのお問い合わせはこちらから
info@vertex-p.com