FedExの地域エコシステムでイノベーション創出を目指すアクセラレーション事例

メンフィスでの地域活性化を担う組織で運営するアクセラレータープログラム
物流大手FedExがアクセラレータープログラム「EPIcenter Logistics Innovation Accelerator」のスポンサーとなって物流領域のスタートアップを支援する。
プログラムはFedExの本拠地があり、物流系の事業者が集積するテネシー州のメンフィスに参加スタートアップを呼び寄せ実施する。
地域のエコシステムを構築し自社事業でのイノベーション創出を目指すFedExのアクセラレータープログラム活用のあり方にせまる。
FedExの拠点でもある物流企業が集中する米テネシー州のメンフィス米国南部のテネシー州の西端にある都市メンフィスは、ミシシッピ川に面しており河港都市として発展してきた歴史を持つ。
また、世界1,2を争う空港貨物を取り扱うメンフィス国際空港があり、米国の水陸空の物流のメッカと言える都市である。そのため必然的にFedExをはじめとする物流関連企業がメンフィスに集積している。
1.メンフィスでイノベーション創出と地域活性化を目指す「EPIcenter」
EPIcenterは、メンフィスの100人を超えるビジネスリーダーが加入している、大企業、投資家、起業家、メンターを繋ぐメンフィスエリアにおけるイノベーション創出を目指すハブとしての役割を担っている非営利組織として運営されている。
スタートアップ向けにアクセラレータープログラムの運営や、他アクセラレータープログラムの紹介、メンタリング、資金調達の相談、コワーキングスペースの運営をしている。
スタートアップがメンフィスエリアで新たな事業を始めようと考えた際に、資金調達を含む様々な支援の相談ができる組織となっている。
EPIcenterは上記のスタートアップ支援を通して、メンフィスエリアで2024年までに1,000人の起業家、500社の新たな企業創出を目標として掲げている。
食品、メディカルの領域などで、EPIcenterはアクセラレーター組んでアクセラレータープログラムを複数運営しているが、EPIcenterが主催するアクセラレータープログラムが、FedExからの資金提供や様々な支援を受けて運営される、物流領域の「EPIcenter Logistics Innovation Accelerator」である。
2.FedExは地域エコシステム構築でイノベーション創出
FedExでは直接アクセラレータープログラムを運営する形式を取らず、メンフィスの物流産業の活性化をサポートするという位置付けでEPIcenter主催として「EPIcenter Logistics Innovation Accelerator」を運営する形式を取っている。
メンフィスエリアの物流産業でのイノベーション創出を活性化する地域のエコシステムづくりという大義名分だけではなく、プログラムの支援を通じてFedEXの事業強化につながる有望スタートアップの発掘と協業/出資を目指すという狙いが見て取れる。
現在、EPIcenterが開催する3回目となるアクセラレータープログラム「EPIcenter Logistics Innovation Accelerator」が2017年3月1日を応募締め切りとする形で開催されている。
FedExはスポンサーとしての資金提供とともに、物流業界のエキスパートとしてメンターとしての役割も担ってプログラムに参加している。
スタートアップの募集対象となるテーマは物流関連の領域を中心に幅広く設定されている。
■First-Mile/Last-Mile Delivery
■Data-Driven Supply Chain Management and Predictive Analytics
■Internet of Things (IoT)
■Smart Packaging
■Robotics
■Location- and contextual-based services
■Additive Manufacturing
上記の幅広い物流に関連する領域から最大6社のスタートアップがメンフィスで実施される15週間にわたるプログラムに進み、FedExの社員からのメンタリングを受けながらビジネスモデルのブラッシュアップを行っていく。
FedExとしてはメンタリングを通して、FedExの事業強化につながるビジネスモデルやサービスを創出し得る有望なスタートアップを見極めて、PoCや実証実験、協業や出資の検討を行う予定だ。
前回の第2回目となるEPIcenter Logistics Innovation Acceleratorでは2016年8月11日にデモデーが開催され、以下の3社のスタートアップが登壇した。
NovoNav
配達員は配達の最終段階で道に迷うことが多いと言う。NovoNavは配達先まで配達員を案内するナビゲーションシステムで配達をサポート。
スモールビジネスが貨物トラックにできた余りのスペースに貨物を置いて、運搬できるようにする貨物運搬のためのマッチングサービス。
SILQ
機械学習によって顧客対応のメールなどのデータを分析して有益なインサイトを提供するツールを開発。
各社FedExの物流事業の進化に貢献し得るビジネスを行っており、今後これらのスタートアップからFedExとの協業や出資が行われていく可能性もある。
FedExは単独でアクセラレータープログラムを開催することも可能だが、メンフィスという物流関連事業を展開する企業が集積するエリアでのエコシステム作りを重視し、自らは前面に出ることなくスポンサーとしてプログラムを運営を行うという形を「EPIcenter Logistics Innovation Accelerator」では取っている。
FedExの取り組みはプログラムでの直接的な自社との協業先/出資先探索ではなく、自らの事業領域でのエコシステムを作ることを目的とするプログラム運営を行うことで、そこから真にターゲットとする領域で価値ある協業が可能なスタートアップを見極めを目指すという、遠回りに思えるが確実な成果を見通しやすいアクセラレータープログラムの活用形態と言えるだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
Comments