東條貴志/Takashi Tojo
【海外事例】コロナ前後のオープンイノベーションプログラムのグローバルトレンド考察
グローバルでのオープンイノベーションプログラムの現在状況
長らく当ブログ更新が滞ってしまっておりましたが、ワクチン接種が開始されたもののコロナの感染拡大の状況がまだまだ世界的に収束が見えない中において、オープンイノベーションのグローバル各社の取り組みについても以前に当ブログ記事としてり上げて来た頃から、様々な変化が起こってきています。
改めて新型コロナウイルス感染拡大に見舞われたタイミングである2020年辺りから振り返り、国内外のオープンイノベーションプログラムの動向を見渡しながら、本ブログ内で、今後の日本でのオープンイノベーションの取り組みについての示唆を見つけられればという思いで、事例や考察を少しずつ記事として出していきたいと思います。
以前、掲載していたオープンイノベーションの海外事例以降、改めて最新の海外事例を見ていくと、3つの大きなトレンド変化があったように思われます。
単発のアクセラレータープログラムだけでは続かない
オープンイノベーションを加速する企業はプログラムミックスを推進
コロナ禍の今だからこそグローバルに仕掛けるグローカル企業
以下、上記のトレンドについて概要を見ていきたいと思います。
1.単発のアクセラレータープログラムだけでは続かない
2017年前後にまとめた過去ブログ記事にて、海外企業におけるアクセラレータープログラムと周辺のオープンイノベーションに関する様々な業種、地域の企業における取組について情報を発信してきましたが、当時はまだ多くの企業が有望スタートアップ開拓とその手法としてアクセラレーションを実行し、協業を目指す取り組みを開始したばかりという状況でした。
しかし、そこから3年ほど経ち、オープンイノベーションの取り組みについて有名事例として取り上げられていたような企業の取り組みも含めて、現在はプログラムをストップしてしまっているものも多くあるという状況です。
例えばメジャー企業では、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser Busch Inbev)やナイキ(Nike)、モンデリーズ(Mondelez)といった消費財メーカーや、フォルクスワーゲン(Volkswagen)など自動車メーカー、BBC、タイムワーナー(Time Warner)といった欧米メディアなどもアクセラレータープログラムの取り組みを停止しています。
プログラムを停止した企業の特徴としては、アクセラレータープログラムを「単体」で運営してスタートアップ探索から協業を目指しており、後続のインキュベーションの仕組みや投資事業、CVCとの連携による投資による協業/連携強化の取り組みが明確には見られないというのが共通項に見られます。
アクセラレータープログラム単体では期待したスタートアップとの協業実行や成果を出すことができずに取り組み停止に至ったのではないかと思われます。
2.オープンイノベーションを加速する企業はプログラムミックスを推進
アクセラレータープログラムの取り組み停止企業も出てきた一方で、協業先スタートアップを決定した後のインキュベーションプログラムやCVC/投資部門との連動になど様々なプログラム/取り組みを連動させながらオープンイノベーションの成果を体系的に実現していくことを目指す企業が多く存在しています。
例えば、ドイツ自動車メーカーBMWの「INNOVATION LAB UK」では英国をベースにアクセラレータープログラムでスタートアップのソーシングと参加企業へのメンタリングなどの実施により、有望スタートアップの発掘を行っています。
同時に、ドイツで実施される「BMW Startup GARAGE」ではBMWのサプライヤーとして実取引を実行できるレベルのスタートアップのソーシングを行うプログラムを展開し、さらに、単独でも大きな事業展開が見込めるレイターステージのスタートアップ向けに投資を行う「BMW iVentures」といったCVCも連動させるなど、スタートアップのステージやそのレベルに合わせた様々なプログラム/取り組みを組み合わせたオープンイノベーションの施策を展開しています。
その他にも化粧品大手のロレアル(L'OREAL)やユニリーバ(Unilever)、航空産業のエアバス(Airbus)、金融大手のバークレイズ(Barclays)といったグローバルメジャー企業では、それぞれ独自の仕組みとして、アクセラレータープログラムやインキュベーションプログラム、CVCなどの投資機能を地域や領域などに応じて組み合わせて自社にとって最も成果が見込める形でのスタートアップの発掘と協業/投資の仕組みを構築しています。
今後、本ブログ内でも各社の取り組み事例について具体的に深堀りをしていきながら、コロナ後を見据えたオープンイノベーションの新たな仕組みについて考えていきたいと思います。
3.コロナ禍の今だからこそグローバルに仕掛けるグローカル企業
コロナの感染拡大以降のグローバルでのオープンイノベーションの取り組みについて、欧米メジャー企業に留まらず、様々な地域/領域の企業/組織でグローバルにスタートアップを募集するアクセラレータープログラムが増え始めてきたということも傾向として見え始めています。地域の文化や慣習に向き合いながら、社会ニーズに合致した行動をとる「グローカル(Global+Local)企業」の傾向です。
例えば、昨年の取り組みではありますが、ロシア最大のハイパーマーケットチェーンのレンタ(Lenta)社によるアクセラレータープログラムや、ノルウェーで船舶の排気ガス削減ソリューション/技術を提供するヤラ・マリン(Yara Marine)社のアクセラレータープログラム「Yara MarineX」など、いわゆるグローバルメジャーではない企業によるグローバルでのスタートアップ協業を目指したアクセラレータープログラムが実施されています。
また、インドの鉄・エネルギー・セメント・港湾インフラなど様々な事業を展開するコングロマリット企業のJSWグループのクリケットチームやサッカークラブなどを保有するスポーツ部門「JSW Sports」も新たなアクセラレータープログラムを開始するなど取り組み業種、テーマも多様化が進んでいます。
中東で最大規模の金融機関であるアラブバンク(Arab Bank)のグローバルスタートアップとの協業を目指すアクセラレータープログラム「AB Accelerator」では、年1回のバッチ形式イベントのアクセラレータープログラムから進化し、通年でグローバルでのスタートアップからの協業提案を募集する形でプログラムを展開するなど形式も多様化が進み始めています。
いわゆるグローバルメジャーではない企業においても、グローバルでの協業先スタートアップ開拓をアクセラレータープログラムなどのオープンイノベーションプログラムを通じて実施する企業がコロナ禍に見舞われる中でも出始めており、グローバルでオープンイノベーションの取り組みの多様化が進み始めているというのが直近の状況となっています。
4.自社に合わせたオープンイノベーションプログラムミックスが成功の鍵
海外先進企業のオープンイノベーションの取り組みは、グローバルメジャー企業に限らずグローバルでのスタートアップとの協業を前提に、各社各様の目指す成果に合わせてオープンイノベーションプログラムを組み合わせて推進しており、今後の国内でのオープンイノベーションプログラムの取り組みを考える上でも参考になる部分も多くあるかと思われます。
コロナ禍が今後どのように収束に向かっていくのかによって大きく変動する部分も多いと思われますが、アフターコロナの市場/社会環境を見据えたテーマで、どのようなスタートアップとオープンイノベーションの取り組みを進めていくことを目指すのか、どの地域を対象にしたプログラムとしていくのか、といった視点で最適なオープンイノベーションの取り組みを組み合わせていくことが求められます。 特にサステナビリティ(持続可能性)、脱炭素/気候変動対応、DX(デジタル・トランスフォーメーション)といったグローバルトレンドのテーマでのオープンイノベーション活動は、国内外で有望スタートアップの取り合いとなっていくことが予想されます。
単発のオープンイノベーションプログラムだけではなく、自社の環境を踏まえつつもグローバルでのオープンイノベーションプログラムミックスを考えていくことの重要性が増していくと考えられるでしょう。
ベルテクス・パートナーズ イノベーションソリューションメンバーによる本ブログでは、今後のオープンイノベーションプログラムの強化を検討される皆様のお役に立てるよう、蓄積した事例/考察/またはデザインシンキングなど様々なオープンイノベーションに関する取り組みを公開していく考えです。類似の活動やアクセラレーション運営についてご検討されている方は、是非紹介資料のダウンロードもご検討ください。
東條貴志
ベルテクス・パートナーズ 執行役員パートナー/イノベーションソリューション事業部
複数スタートアップでの新規事業立ち上げや、ローランド・ベルガーなど複数コンサルティングファームにて新規事業創出など様々なテーマで50超のプロジェクトに従事。ベルテクス・パートナーズではスタートアップでの事業マネジメント経験とコンサル経験を融合したイノベーション創出支援や新規ソリューション開発を推進。
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