アコーホテルズが導入した睡眠の質を高めるAIウェアラブルデバイスDreem

睡眠の質に着目したAIウェアラブルデバイス
ホテルにおける滞在を快適な体験とするために、ラグジュアリーホテルを中心に室内のスマート化による客室空間の快適さを実現するデバイスやサービスの導入が試みられている。
今回はAI活用デバイスを導入したユニークな海外事例として、アコーホテルズで体験できる睡眠の質を高めるためのAIウェアラブルデバイス、Rythm社のDreemを紹介する。
快適に1日を過ごすために睡眠の質を高めることに注目が高まっており、睡眠の質をモニタリングするデバイスが多く市販されているが、単なる睡眠のモニタリングを行うだけではなくDreemでは収集したデータがAIによって解析し、睡眠の質を改善するための提案がされる点にある。
快適な睡眠をサポートする枕などの寝具をアピールするホテルは多いが、アコーホテルズでは一歩進んでAIウェアラブルデバイスによる快適な睡眠のサポートを行っている。
睡眠が健康に与える影響に注目が集まり、睡眠障害は生活習慣病や記憶力にまで影響を及すことが広く認識されるようになり、睡眠時間を十分にとることだけではなく、「質の良い睡眠」を取ることの重要性が高まっている。
こうした睡眠への関心の高まりから、睡眠時間や睡眠の質をモニタリングするスマートフォン・アプリや、腕などに装着するウェアラブルデバイスも数多く市販されている。
今回紹介するDreemは、モニタリングした睡眠に関するデータを利用者に見せるだけではなく、収集したデータをAIで解析して、睡眠の質を高めるアドバイスまで行う。
1.アコーホテルズで体験できるAIウェアラブルデバイスによる睡眠体験
アコーホテルズ(AccorHotels)はフランス、パリを拠点とし、ラッフルズ、ソフィテルなどのラグジュアリー・ホテルから、イビスなどのエコノミーホテルまで、幅広いブランドの4,200以上のホテルをグローバルで展開している。
2018年1月、アコーホテルズは「スマートルーム」のコンセプトにて、アクセシビリティに配慮したデザインのゲストルームを発表した。
アコーホテルズの「スマートルーム」には、夜間にモーションセンサーで点灯するフットライトやGoogle Homeなどの音声アシスタントやタブレットでコントロールするLEDライトやカーテンといった様々な室内環境が提供されている。
特に「快適な睡眠」を提供するために アロマの目覚ましSensorWakeやスムーズな入眠を誘う自動調光ライトDodowやDreemヘッドバンドなどのデバイスも導入されている。
このうち、Dreemヘッドバンドは、AIウェアラブルデバイスとして、異彩を放っている。
Dreemヘッドバンドは、利用者の心地よい入眠と、ぐっすり眠った後に爽やかに目覚めることをサポートするウェアラブルデバイスだ。
Dreemのヘッドバンドを着用すると、より早く、より深い眠りに入れるように、骨伝導によって眠気を誘う音が伝えられる。さらに睡眠中は、脳波や心拍数などのデータがデバイスから収集されて、スマートフォンやタブレットにインストールされているDreemアプリで、睡眠スコアとともに、睡眠時間、入眠タイミング、熟睡タイミング、寝返り、心拍数などの睡眠に関するデータが確認できる。
加えて、利用者それぞれに合った、眠りのためのテクニックや呼吸エクササイズ、入眠のためのメディテーションのガイドが、Dreemアプリで確認できるようになる。
ここでAIは、Dreemによって睡眠中に収集されるデータの解析と、利用者の睡眠状態に合わせてパーソナライズされたガイド生成に活用されている。
2.Dreemを進化させるRythm社のAI
アコーホテルズの「スマートルーム」で体験できるDreemヘッドバンドを開発したのは、フランス、パリに拠点を置くスタートアップRythmである。3年の開発とテストを経て生み出されたRythmの最初の製品が、AI睡眠ヘッドバンドDreemだ。
Dreemのヘッドバンド本体には、脳波、加速度、酸素濃度を検知/収集するセンサが埋め込まれており、それらのセンサーデータを組み合わせてヘッドバンドの低電力プロセッサーに設定されたアルゴリズムで解析を行い、ヘッドバンド利用者の睡眠ステージやパターンの判別に使う。
その解析結果に基づいて、睡眠誘導、深い眠りに誘うヘッドバンドの動作、さわやかな目覚めのためのアラームといった機能を実行する。こうした処理は、ヘッドバンド内でデータ解析がされてリアルタイムに実行される。
Rhythmでは、Dreemでのデバイス側での処理の実現のために、開発期間には680ユーザーの32,000以上の睡眠データを、最新バージョンではさらに250ユーザーの5,000以上の睡眠データを学習したアルゴリズムを構築している。
Dreemヘッドバンドで集めたデータは、いったんDreemのサーバーにアップロードされて、睡眠科学の専門家チームによって、ノイズを取り除いて睡眠の特定の周波数帯に絞ったデータに前処理を行い、手動で30秒刻みの脳波データに適切な睡眠ステージをラベリングし、さらに2秒ごとに注釈をつけている。
こうした加工データをRhythmのAIに学習させることで、Dreem利用者の睡眠品質の判別、睡眠ステージの分類、脳波パターンを識別する学習モデルを構築している。
今後収集するデータもさらに学習させてDreemのアルゴリズムに反映させることで、よりパーソナライズされたDreemによる睡眠体験を強化していくと考えられる。
3.ホテルの設備/アメニティによる競争から次の段階に進めるAI
ホテルにとっては、DreemのようなAIアルゴリズムが搭載されたウェアラブルデバイスを設置することによって健康に配慮したパーソナライズされた特別な体験を宿泊客に提供することができる。
宿泊客にとっても、ホテルでのAIウェアラブルデバイスによる快適な睡眠は、他のホテルと一味違う宿泊体験ができる一つの要素となりえるだろう。
客室の設備やアメニティなどによる競争から、より踏み込んだ宿泊体験を提供して競争力を高めるべくスマートルーム化を進めるホテル業界において、こうした睡眠サポートに限らずAIを活用したサービスは宿泊客を引き付ける要素として様々な試みが今後進んでいくのだろう。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
AI/INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種でのAIプロジェクトの推進支援や新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業におけるAIプロジェクトを推進や、新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。
監修者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
執行役員パートナー 東條 貴志
スタートアップでの新規事業立ち上げや事業責任者などの経験と、アーサーアンダーセン、ローランド・ベルガーなど複数ファームでの10数年のキャリアに基づく先端領域における大手企業の新規事業・イノベーション創出支援やAI/機械学習を活用した事業創出/業務改革に多数の経験を有す。
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