Royal Dutch Shellのエネルギーベンチャー企業支援プログラムの複数同時展開事例

エネルギー企業の雄シェルに学ぶ新規事業創出の多角展開事例

 

 オランダの石油大手のRoyal Dutch Shell(以下、シェル)が、インドでアクセラレータ「Make the Future」をスタートした。世界各国で、多彩なプログラムを多角展開するシェルは、社内で乱立しがちな新規事業創出の取り組みを、いかに共存させ、進化させようとしているのか?

 

 

1.シェルインド法人が「Make the Future」プログラムを始動

 

 シェルのインド法人が、アクセラレータプログラム「Make the Future」をスタートすると発表した。プログラムへの応募締切は、2017年2月3日までとなっている。

 

 選出ベンチャー企業は、賞金10万ルピー(約16万円相当)に加え、シェルやエネルギー業界の著名人からのメンターシップ、資金調達のチャンスが得られる。

 

 さらに、最終的に絞り込まれる3社に選出されると、3月にシンガポールで開催される世界大会のイベントに進出する権利が与えられる。

 

 石油会社として長年にわたり事業を拡大してきたシェルだが、低炭素社会の本格的な到来に合わせて石油に代わる新エネルギー事業の開拓を急いでいる。

 

 本プログラムで募集するのも、クリーンエネルギーに取り組むベンチャー企業だ。

 

 エネルギー効率を高め、浪費を減らしてCO2を削減できる、新たなエネルギー事業の開発を狙っている。

 

 本プログラム開催の背景として、シェルインド法人代表のNitin Prasedはクリーンエネルギーでの新たな事業創出に向けたコラボレーションの重要性を語る。

"At Shell, we believe that collaboration is vital to our purpose of ‘powering progress together for more and cleaner energy’ and to solve the complex global energy challenges."

出典:Inc42.com 

 

 シェルは、ベンチャー企業との恊働に新たなエネルギー事業開発の糸口を見出しているのだ。

 

 

2.「Make the Future」を世界展開してきたシェル

 

  シェルのMake the Futureプログラムは、インドに限らず、欧州、南米など様々な地位で展開されてきており、その実施形態も様々である。

 

 例えば、2015年にブラジルで開催されたプログラムではビジネスコンテストのファイナリストとなったInsolarとの協業でCSR的な事業展開も行っている。

 

 「Making Santa Marta Brighter」(サンタマルタを明るく照らす)と名付けられたこのプロジェクトでは、リオデジャネイロのスラム街のサンタマルタで、低所得者層に太陽光エネルギーを届けている。

 

 コミュニティの建物や施設の電源に太陽光エネルギーを活用し、これまでに185,000日分の電気を、クリーンエネルギーによって無料で提供している。

 

 またInsolarのファンドを通して、ソーラーパネルを設置するための経済的援助を並行して行っている。

 

 Insolarとの協業は、CSR的な要素が強かった事もあり、多くのメディアを通してその成功が紹介され、クリーンエネルギー事業に取り組むシェルのブランドイメージ向上にも貢献している。

 

 

3.社内の多彩なプログラムを巧みに共存させ、進化させる

 

 「Make the Future」のブラジルでのイベントとしての成功、インドでのプログラムの開始までにも、シェルは長年社内で多彩なプログラムを多角展開させてきた。

 

 そのプログラムは、CSR的な新規事業立ち上げからビジネスコンテストに至るまで幅広い。

 

 さらにロンドンでの「「Make the Future」」ではCSRイベントという位置付けを全面に出しており、他のイベントに参加したベンチャー企業の紹介/展示や、ソーラーパネルカーの航続距離を競うレースなどをメインに据えて実施したりもしている。

 

 その他に、「Springboard」と名付けられたビジネスコンテストではクリーンエネルギーでの協業先候補のクイックな開拓を目指している。

 

 ビジネスコンテストの優勝者には、各地域で4万ポンド、総合優勝者には15万ポンドが与えられる。2005年にローンチされた本プログラムでは、これまでに92のベンチャー企業に合計350万ポンドが提供されてきた。

 

 イギリスでは、創業後5年以内に半分以上のベンチャー企業が倒産する中、選出ベンチャー企業は、今も80%以上が事業展開を続けており、シェルとの協業やコンテスト出場に伴う知名度向上といった効果で事業成長を続けている。

 

 また、「LiveWIRE」プログラムと名付けられた投資プログラムでは、1982年のスタート以来、若手起業家920人が恩恵を受けてきた。

 

 スモールビジネスの支援を行う本プログラムは、アイデア創出ワークショップ、事業計画作成支援、事業改善支援といったベンチャー企業のサポートを行っており、世界15拠点にて開催されている。 

 

 これらの取り組みを単独で行うのではなく、各プログラムで選出されたベンチャー企業のプレゼンや展示などを各イベント相互に参加させ合うなどしていきながら、コンセプトの異なるインベントに参加したベンチャー企業の交流機会や投資家への引き合わせなどを行い、プログラム全体を盛り上げるような仕組みとしている。

 

 

4.巨大企業のアクセラレータ活用のモデルケース

 

 シェルの時価総額は、約20兆円。世界でトップ30に入る規模であり、日本トップのトヨタと同程度の規模を有する巨大企業だ。

 

 約10万人の従業員を抱えるシェルのような巨大企業の内部では、部門や地域を越えた連携を行うことは一般的に非常に難しい。

 

 しかしシェルは、各プログラムを地域を超えて連動させようという試みを強力に推進している。

本記事で紹介したMake The Future、Springboard、LiveWIREは、それぞれ異なるコンセプト/地域で運営されている。

 

 Make The Futureは、シェルの社会貢献を志向する一貫したメッセージとして機能しており、メディア露出を通じたブランディング、CSRとの連動を推進している。

 

 一方、Springboardはイギリスでの低炭素社会の進展に対応したイノベーション創出を目指すベンチャー企業発掘のビジネスコンテスト、LiveWIREは世界各国でのスモールビジネスの支援と、異なったターゲットと目的を有しながら相互交流も図っている。

 

 多くの企業で、新規事業創出に向けたベンチャー企業支援やベンチャー企業投資、CSRなど様々取り組みが同時並行で動いている。

 

 しかし、異なる部門で実施されたイベントで相互交流を図ることは調整が非常に大変なものになるが、それらを乗り越えて既存のイベントに参加したベンチャー企業などを紹介し合うなどの体制構築を行うことで、ゼロからプログラムを設計するよりも広範なエリアを対象に迅速に規模と対外的なインパクトの大きな新規事業創出プログラムを作ることが可能になる。

 

 これまで新規事業創出イベントを多数実施してきた企業にとって、無理に新たなプログラムを始めるのではなく、こういった既存のプログラムを活かした仕組みで新規事業創出の取り組みを始めるというのも、まずは始めるという観点で有力な新規事業創出体制構築の選択肢の一つとなり得るだろう。

 

 

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執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

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