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  • 執筆者の写真中島和哉/Kazuya Nakajima

「SAGAから世界へ」 佐賀県がスタートアップ連携に見出す“コスメ”産業集積の新機軸



 アジア有数のコスメティック関連産業の集積地を目指す起爆剤として、昨年度から自治体唯一の「ビューティー&ヘルスケア」特化のアクセラレータープログラムを開催している佐賀県。行政主催というと「古くてお堅い」イメージを持たれがちだが、早くも2年目(2021年度)からテーマと運営方針を変更し、国内だけでなく欧州・アジアを軸に世界から有望スタートアップを佐賀に集める方向でスケールアップ。スピード感を持って野心的な内容に踏み込む。


 「世界からSAGAへ」「SAGAで生まれたものを世界の市場へ」というコンセプトの実現に向け、どのような考えで取り組みを推進していくのか。なぜ佐賀県でコスメ、そして海外含めたスタートアップ連携が必要なのか。


 「SAGAn Beauty & Healthcare Global Accelerator 2021」を主催する「佐賀県ものづくり産業課コスメティック構想推進室」の室長で、通商領域などでの国際戦略のキャリアが豊富な北村志帆氏に展望を聞いた。


 ※本インタビューはオンラインで実施し、写真撮影時のみマスクを外して佐賀県側に撮影いただきました。



 

★佐賀プログラムの魅力を語る「後編」は以下





※ベルテクス・パートナーズでは組織内新規事業やイノベーション創出、グローバルアクセラレータープログラム構築を支援しています。本記事に関連した取り組みにご関心の方は、是非こちらもご覧いただき、お気軽にご連絡ください。

 

北村志帆(きたむら・しほ)

〈佐賀県産業労働部 ものづくり産業課 コスメティック構想推進室 室長〉

 佐賀県佐賀市出身。中国・上海の日系コンサルティング企業において日本企業の進出サポートやマーケティング調査を推進後、2006年に佐賀県庁入庁。農林水産商工本部や国際・観光部など複数部署にて国際戦略や上海デスクの代表を担ったほか、県の施策にデザイン視点を導入する「さがデザイン」担当として「2017年グッドデザイン賞ベスト100」受賞に貢献。2020年10月より現職。スタートアップ連携も含めたコスメティック構想の推進に取り組む。

 

「佐賀に来れば、コスメビジネスが回る」県内資源を活かしたプログラム


――国内外スタートアップを呼び込むアクセラレータープログラムの導入の目的は何でしょうか?


北村室長)

 全国の都道府県でも珍しい「コスメティック」の組織名を持つ私たちの最大の目的は、佐賀県にコスメティック関連の様々なプレイヤーを集めること。そして、プレイヤーと一緒に発展して海外にも展開し、佐賀県をアジアのコスメティックの拠点としてビジネスを加速する地にすることです。


 そのプレイヤーの集積に、ゼロから事業を生む力と成長速度の速いスタートアップの皆様の存在は極めて重要です。そして、その近道となる手段としてアクセラレータープログラムが最適と考えています。


 佐賀県は、その豊かな天然由来原料に恵まれている強みをさらにいかすため、2013年からビューティー&ヘルスケア産業の集積地を目指す「コスメティック構想」を推進してきました。この数年だけでも10を超えるコスメ関連企業が進出し、ミカンの花やつばき油など50品目以上の県産農産品や植物が化粧品に使われています。日本の誰もが知る有名化粧品ブランドやセレクトショップでの商品にも使用されていますね。


 「佐賀に来れば、コスメを中心にビューティー&ヘルスケア領域の相談先には困らない」「相談すれば何らかの回答が得られるネットワークがある」。そのような佐賀だからこそできる部分には是非期待していただいて、スタートアップや新ビジネスを検討する企業の皆様には本プログラムにも応募してもらいたいです。



――応募を考えるスタートアップにとって、今年度の特徴はどこでしょうか?


北村) プログラム運営方式の変更に伴う、テーマの明確化です。

 大枠は「ビューティー&ヘルスケア」で変わりませんが、初年度だった2020年度は、スタートアップを募集する前に、協業を募る県内企業4社を決めました。そして、4企業それぞれがリソースに応じて「サステナビリティ」「地方創生」「健康増進」といったテーマを複数決めてスタートアップを募りました。

 

 今年度は企業ありきではなく、佐賀プログラムで実現したいビジネスアイデアを提出してもらったスタートアップ側を選んだ上で、ビジネスモデルの具体化を支援する形になりますので、テーマも「コスメティック」「美容デバイス/サービス」「ヘルスケア」と明確化してビジネスアイデアを募ります。


 例えばコスメティックであれば佐賀県産の原材料を活用したサステナブルコスメ、美容デバイス/サービスであればARやIoTといったデジタルテクノロジーを活用したもの、ヘルスケアであれば健康管理・健康維持を意識したサプリメントなどですね。佐賀県内にある企業や施設、生産拠点が持つ生産・開発・販売の機能と連携する可能性があるビジネスアイデアを幅広く念頭に置いています。


 特に今年度は、大手化粧品メーカーのオープンイノベーションプログラムの企画実行支援など、美容/ヘルスケア系を含めた様々な企業でのプログラムや新規事業創出の実績を持つ株式会社ベルテクス・パートナーズさんに企画運営を進めてもらいます。

 

 同時に、ベルテクスさんと共同のコンソーシアムとして選定しているAgorize Japan(アゴライズ・ジャパン)株式会社さんが、その世界で40万社を超えるスタートアップネットワークとグローバル支援のノウハウを有していますので、「海外スタートアップ」というプレイヤーにも新たに佐賀と事業連携することにも挑戦します。


 アクセラレーション期間中のハンズオン支援やメンタリングも含め、よりスタートアップの皆様独自のビューティー&ヘルスケア業界の課題解決に向けたアイデアをブラッシュアップできるプログラムとなっていると言えます。


世界から多彩なプレイヤーを佐賀に集める


――テーマからも、より多彩なプレイヤー集積を目指されているわけですね?


北村) そうです。

 実は、今年度プログラムを検討する上で、当初はテーマを「コスメティック」一本で考えていましたが、そこを広げた感覚です。業界全体の発展やトレンドを考慮しても、化粧品だけにとらわれないサービスが今後重視されてくる、それを含めなければならないだろう、という考えがあります。


 私たちの“コスメ”という概念でも、医薬品など医療に当たらない手前ぐらいまでの領域で幅広くとらえて考えても良いのではないか、という発想の広がりをしています。


 加えて、県内メーカーには食に関する企業も多くありますので、コスメティックを幅広くとらえることで、関連企業や関係者にもプログラム参画をしてもらいやすくなりますし、スタートアップの皆様に提供するネットワークにも幅が出ると考えています。



――プログラム全体を通じて、コスメティック関連の県内リソースのネットワーク活用を促していくわけですね?


北村) プログラムでは、11月上旬までの書類とピッチ選考で10社前後のスタートアップの採択を決めます。その後、約4か月間にわたって運営側のハンズオンやメンタリングにより事業アイデアをブラッシュアップしつつ、随時、県内のコスメティック関連ビジネスの企業や団体、大学などとの協業実現の支援や、佐賀県内での事業化や県内への企業誘致を図っていきます。


 佐賀県としても、スタートアップの皆様には、それら様々な資源の積極的な活用を模索することで、事業機能の強化やコストの抑制の実現、また投資家もお呼びする最終イベント「デモデイ」での発表による資金調達機会のチャンスなどを手にしてほしいと思います。


 そして県内での事業化や拠点進出などを支援させてもらい、世界からプレイヤーを集め、一緒にアジア市場を見据えた成長をしていきたいです。

【コスメ事業展開で活用が想定される佐賀県内地域アセット例】=佐賀県資料より抜粋

アジアにおけるコスメビジネス拠点としての存在感を高める


――スタートアップと初めて連携した昨年度の成果と課題はなんでしょうか?


北村) 2020年度は県内企業4社が示したテーマに対し、スタートアップ企業から81件のエントリーがあり(複数応募含む)、企業側の持つ生産者のネットワークや植物素材の化粧品原料化ノウハウなどを活用したさまざまな事業創出の提案がなされました。最終的に10社が採択され、現在も継続して実証実験などの協業推進が図られています。

 

 一つの事業や限られた商品しか作っていなかった県内企業が、スタートアップの知見や斬新なアイデアを取り込むことによって新たな事業を見つけ出していましたが、私たちにとっても「県内企業とスタートアップの協業は、こうやって生まれていくんだ」という新鮮な発見がありました。


 新型コロナウイルス感染拡大の影響による様々な制限などによる遅れもありましたが、今後、昨年度チームがプレスリリースで公表されていけば、他の県内企業さんの刺激にもなっていくでしょう。


 一年目だからこそ、協業を推進するスタイルでプログラムを実施したことは、県内企業にとって「具体的に目に見えやすい動き」となったので良かったと感じています。



――その中で、新たに2021年度のスタートアップ募集では海外も大きな柱となりますね?


北村) 2013年に「一般社団法人ジャパン・コスメティックセンター(JCC)」(2021年6月30日現在、会員数163企業・団体)が発足し、佐賀県で「コスメティック構想」が動き出して以来、フランスのコスメティックバレーなど6つの海外コスメティッククラスターとの連携が進んでいます。アジアでは、中国、台湾、タイがあります。


 特に私たちとしても、近年はアジアでは中国に力を入れ始めているほか、フランスとの連携強化も図りつつあります。様々なプレイヤー集積を加速するという目的に対応するためにも、プログラム2年目ですが、グローバル対応に挑戦することにしました。


 特に今回のプログラムでは、運営事業者として、前述の国内でのイノベーション支援や新規事業創出を手掛ける株式会社ベルテクス・パートナーズさんと同時に、グローバルで40万社を超えるスタートアップネットワークを持ち、世界最大級のオープンイノベーションプラットフォームを運営するAgorize Japan(アゴライズ・ジャパン)株式会社さんの2社共同コンソーシアムを選定しています。それは、私たちが進めたかった「海外からも佐賀にスタートアップを集める」という提案があったことも評価となった理由の一つです。


 もともと、コスメティック領域に関しては、「自治体としては日本でも先端を走っているのだ」という思いで取り組んでいますが、アゴライズさんのグローバルネットワークを活用した今年度のアクセラレーションを活かして、「佐賀のコスメティック構想」ではなくて、「アジアの中の代表的なコスメビジネスの拠点」の一つという存在感も示すきっかけにできたらと考えています。

多彩なメンバーがそろう佐賀県ものづくり産業課「コスメティック構想推進室」(=佐賀県提供、※撮影時のみマスクを外しています)

「行政らしからぬ佐賀県」で、多彩なメンバーがプログラムを主催


――野心的なプログラム主催ですが、佐賀県だからこそできる特徴があるのでしょうか?


北村) 私自身、以前は民間企業で中国・上海での日本企業進出やマーケティング支援をしていた経験があります。入庁後もその経験を活かして複数部署で国際戦略などを担当してきましたが、ずっと「日本の国内だけを見ていてはダメで、先進の知恵を取り入れないわけにはいかない」という考えを持って施策に取り組んでいます。

 

 海外は日本よりもスピードと即効性重視です。本プログラムでも、私の強みであるスピード感を持ってリズミカルに要望に答えることができたらと考えています。


 また、佐賀県は以前から「革新自治体」と呼ばれたりもしていましたが、「公務員だから公平に」ということももちろん大切にしなければならない姿勢ですが、本当にやる気がある人をとことん応援したり、事業立案においてもクリエイティブな部分については、組織縦割りのピラミッド構造でしばしば生じる弊害による影響を受けないようにしながら、また必要に応じて外部の知見を取り入れたりしながらプロジェクトを推進するなど、「行政らしからぬ側面」を積極的に取り入れる文化があります。


 スタートアップ支援についても、庁内にも「DX・スタートアップ推進室」という県内企業のデジタル化や起業支援・スタートアップ支援を担う独立部門がありますが、リスクをとって新事業を進めるベンチャー企業などへの理解も進んでいます。


 コスメティック構想推進室のメンバーも現在5人ですが、私のほかにも民間企業での経験者が2人おり、大手化粧品メーカー出身で事業開発とマーケティングを担うコスメティックの専門性を持つメンバーと、佐賀県が航空会社の社員を受け入れる「チームSAGĀNA(サッガーナ)」のメンバーで顧客目線や消費者ニーズに優れた感覚を持つメンバーがいます。


 さらに県庁プロパー2人も、コスメティック構想における重要な連携先である佐賀県産業イノベーションセンターでの研究開発支援経験や、県内外への流通やマーケティング施策立案経験を持つなど頼りになるメンバーがそろい、自分たちで新しい風を取り入れています。



コスメビジネス集積地・佐賀から世界につながる4か月


――募集を検討するスタートアップや新ビジネスを検討する企業に向けて呼びかけをお願いします


北村) 今回、「コスメビジネス集積地・佐賀から世界につながる4か月」を合言葉にアクセラレータープログラムを推進しますが、実際に県内のコスメビジネスでは、化粧品業界大手のOEM企業が佐賀県へ進出したこともあり、グローバル企業が佐賀に来て商談するなどアジア圏だけではなくEU圏からもビジネスが生まれるきっかけが次々と出始めています。

 

 県内には唐津市がコスメティック関連企業に特化た助成金も用意していますし、県庁内にも創業・スタートアップ支援を担う部署があるなどスタートアップの皆様の事業展開を支えるメニューもありますが、やはり一番のポイントはビューティー&ヘルスケア領域に関する県内ネットワークです。


 改めて、スタートアップや組織内新事業プロジェクトを検討される皆様には「佐賀に来れば、ビューティー&ヘルスケア領域のビジネスが成長する」。「相談先に困らない」。そのようなネットワーク部分にも是非ご期待していただいて、是非多くの皆様に本プログラムに応募してもらいたいですね。


共に、佐賀からコスメビジネスのイノベーションを!(=佐賀県提供)


■“SAGAn Beauty & Healthcare Global Accelerator 2021” 9月30日まで応募受付中!


 佐賀県主催のアクセラレータープログラム、「SAGAn Beauty & Healthcare Global Accelerator 2021」が2021年8月20日から9月30日まで、参加スタートアップ及び新ビジネスを検討する企業の応募を受け付けています。


 今年度は、企業の新規事業やイノベーション創出を支援する株式会社ベルテクス・パートナーズと、グローバル40万社超のスタートアップネットワークを持つAgorize Japan株式会社が共同でプログラムを企画・運営し、海外スタートアップも対象に大きく拡大・刷新したプログラムとなります。


 ビューティー&ヘルスケア領域に関わるスタートアップや、既存企業でもテーマに即した新ビジネスを検討されている皆様のご応募をお待ちしております!


 詳細は、下記特設ページをご覧ください。


〇募集期限:2021年9月30日(木)


〇応募方法:プログラム特設サイト内より応募


(Innovation Toolbox内の特設紹介ページはこちら)


〇募集テーマ:①コスメティック ②美容デバイス/サービス ③ヘルスケア


〇募集対象者:

1)国内スタートアップ

・年齢、国籍不問

・法人、法人登記を検討する個人事業者、チーム

・アイデアプラン企画段階、検証段階、事業化済み、資金調達済みスタートアップ


2)海外スタートアップ

・年齢、国籍不問

・法人に限る(自国での法人登記が完了していること)

・仮説検証や実証実験が可能なプロトタイプ、プロダクト(製品/サービス)を有していること


〈応募歓迎要件〉

・将来的に、佐賀県での事業展開を行い、立地や拠点設置が検討できること

・佐賀県内のコスメ産業関連リソース(施設、大学等)と連携、活用できる可能性を持つビジネスやテクノロジーを有すること


〇主催:佐賀県(ものづくり産業課コスメティック構想推進室)



★佐賀プログラムの魅力を語る「後編」は以下。

 

 ※ベルテクス・パートナーズでは組織内新規事業やイノベーション創出、グローバルアクセラレータープログラム構築を支援しています。本記事に関連した取り組みにご関心の方は、是非こちらもご覧いただき、お気軽にご連絡ください。

 

〈文・構成〉

中島和哉(Kazuya Nakajima)

株式会社ベルテクス・パートナーズ イノベーションソリューション事業部


 毎日新聞社での政治部、経済部の記者として10年超の経験を経て、社内公募ベンチャー制度の創設/推進に従事。その他シードアクセラレータープログラム運営と投資経験をベースに、イノベーションプログラムの設計・運営のプロフェッショナルとしてイノベーション創出支援を推進。


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