イノベーション力を高めるテックハブを構築する香港不動産Swire Propertiesの取り組み

将来の新規顧客獲得を目指すSwire Propertiesのアクセラレータプログラム

 

 香港不動産大手Swire Propertiesのアクセラレータプログラムは、投資も協業も目的としないと明言する珍しいアクセラレータだ。

 

 なぜ目先の見返りを求めないアクセラレータプログラムに取り組むのか?

そこには、不動産会社として中長期での繁栄を目指していく、息の長い戦略があった。

 

 

1、狭い香港で、いかに不動産デベロッパーとして生き残るか?

 

 香港不動産大手Swire Propertiesは、海運・空輸・不動産など多彩なビジネスを展開するSwireグループを親会社とする不動産会社だ。

 

 Swireグループは、ロンドンに本部を置いているが、19世紀後半に上海、香港に拠点を築いており、キャセイパシフィックの株式を45%有するなど、アジアでのプレゼンスが強い。

 

 Swire Propertiesは、香港で商業施設/オフィス開発、不動産賃貸業務を行っており、売上79億香港ドル(約1,200億円)、従業員は4,500名程度を擁している。

 

 また、香港のビジネスエリアであるTaikoo Placeを運営しており、IBMやFacebookなどテック系企業が入居する有数のビジネスセンターを有する企業だ。

 

 拠点としている香港は、アジア有数のビジネス拠点として知られるが、その広さは日本の札幌市程度に過ぎない。限られた広さの中で、Swire Propertiesはいかに不動産会社として生き残っていこうと考えているのか?

 

 そして、保有する物件の顧客をいかに獲得していこうとしているのか?

Swire Propertiesの戦略を探っていこう。

 

 

2.コワーキングスペースを拠点に、香港のテック分野のHUBを目指す

 

 物件に入居する大手企業を獲得したいSwire Propertiesの戦略の一つが、2014年に設立したコワーキングスペースだ。

 

 主にスタートアップをターゲットとしているコワーキングスペースを、なぜあえて大手企業が入居するビジネスセンターであるTaikoo Placeに設置したのか?

それは、スタートアップと繋がりを持ちたい大手の入居企業にとってイノベーション力を高める場としての魅力を構築するためだ。

 

 スタートアップの出入りするコワーキングスペースは、ビルへの入居を検討する大手企業にとって、物件を選択する際の大きなプラス材料となる。

 

 Swire Propertiesは、自社の物件を自由に活用できる不動産会社としての強みと自社の流通網を活用してオフィス家具・什器を手配できるアドバンテージを活かして、約1,000㎡の広さを誇る最先端の設備を備えるコワーキングスペースを提供している。

 

 すでに30を超えるコワーキングスペースが存在する香港において、Swire Propertiesが目指しているのは「香港のテック分野のHUB」としてイノベーション力を高める空間を提供していくことだ。

 

 ビルに入居する大企業やコワーキングスペースを利用するスタートアップは、その立地の利便性といった魅力だけでなく、そこで互いに繋がることができるネットワークやコミュニティと、それらを通じてイノベーション創出/イノベーション力の向上を実現する機会に引き寄せられる。

 

 Swire Propertiesは、物理的に魅力ある空間を用意するに留まらず、香港のテック領域のHUBとなり、ソフトな人脈構築やコミュニティを形成する事できる場作りを目指している。

 

 それがひいては、入居を検討する企業にとってSwire Propertiesの保有物件の不動産価値向上にも繋がっていくためだ。

 

 

3.B2Bテックに特化した6ヶ月のアクセラレータを始動

 

 Swire Propertiesが、香港テック領域におけるHUBを形成していく切り札としてスタートしたのが、アクセラレータプログラムだ。

 

 プログラムは、コワーキングスペースを運営するSwire Properties傘下のBlueprint、そしてアクセラレータのSeedcampが担当している。

 

 プログラム参加企業には、作業スペースとしてSwire Propertiesの保有物件内にコワーキングスペースが提供され、6ヶ月に渡ってプログラムに参加する事ができる。

 

 参加の対象となるのはB2Bのテック分野のスタートアップだ。

 

 従来のアクセラレータプログラムは、プロトタイプを比較的素早く作りやすいB2Cのサービスに取り組むスタートアップも対象に含めるものが多かった。 しかしSwire Propertiesは、香港にすでに多くのアクセラレータプログラムが存在する背景を踏まえて、あえて対象をイノベーティブなサービスを提供するB2Bに限定。

 

 ビジネスとして立ち上がるのに時間がかかるB2Bビジネスの特性を考慮して、プログラム期間を6ヶ月と長めに設定している。

 

 Swire Propertiesのアクセラレータプログラムはすでに4回目のバッチが開催されており、コワーキングスペースを拠点に、テック分野におけるネットワーキングとイノベーション創出の場としてコミュニティが形成され始めている。

 

 

4.選出スタートアップ10社の顔ぶれとは?

 

 具体的にどのようなスタートアップが選出されているのか、第4回のバッチの選出スタートアップの顔ぶれを見ていこう。

 

Addweup(フィンテック)

滞在を終えた旅行客の余った現地通貨をオンライン財布へと預け、チャリティへの寄付に活用できるサービス。

 

EquitySimフィンテック/エドテック)

トレーダーの取引記録をトラックし、最適な投資会社をマッチングさせて提示するサービス。

 

GoSkills(エドテック)

キャリア開発のためのオンラインコース。実務スキルを身につけるための実践コースを受講できる。

 

Made in Genuine(IoT/Eコマース)

IoT技術で、Eコマース上に出回る偽造商品の撲滅を目指す。現在ワイン、香水、革製品への認証を行っている。

 

MARK(リテール)

パーソナルスケジュール管理サービス。既存のカレンダーと同期させて、興味のあるアクティビティに参加する最適な時間帯を提示する。

 

MoVertical(グリーンテック)

食料/栄養不足の問題を解決するため、既存農業の非効率さを解決するサービス。

 

Neoma(O2O)

リテール、イベント、運搬、ホスピタリティ領域において、位置情報を活用したマーケティング支援サービスを提供。

 

Sam the Local(旅行)

香港を旅行する人向けに、オーセンティックで吟味された商品と体験を厳選して届けるサービス。

 

ShareRails(リテール)

オンライン上のインフルエンサー、SNSを通じて、リテール業者と消費者をつなぎ、ソーシャルマーケティング支援を行うサービス。

 

Skipmenu(テレコミュニケーション)

カスタマーサービスに、最も早く、手軽にコンタクトできるサービス。"将来の顧客を育てるアクセラレータプログラム

 

 4回目を迎えたアクセラレータプログラムを通じて、すでに40社のスタートアップがSwire Propertiesの物件に集まり、香港におけるテック分野のイノベーションHUBが形成され始めている。

 

 Swire Propertiesのアクセラレータプログラムは、コワーキングスペースという物理的な作業スペースの提供と参加スタートアップをB2Bに限定しているという点に加えて、6ヶ月という長期間のプログラム運営を行っている点は特徴的だ。

 

 しかし、Swire Propertiesのアクセラレータプログラムを最も特徴的なものとしているのは、Swire Propertiesのからの投資や協業を条件とせず、参加スタートアップに対して短期の目に見える形でのリターンを求めないという点だ。

 

 通常、アクセラレータプログラムを実施する企業は支援の見返りとして、スタートアップへの出資や協業を目的することが多い。しかし、Swire Propertiesは出資や協業といった短期の見返りを参加スタートアップに求めない事を明言している。

 

 代わりに期待しているのは、選出スタートアップが成長して規模を拡大した上で、将来Swire Propertiesの物件に入居する優良顧客となることだ。

 

 不動産事業を展開するSwire Propertiesは、保有物件の魅力を高め、常に入居する企業が絶えることがないように保有物件の環境整備を行っていくことが必要となる。

 

 保有物件に、香港に拠点を構える有力企業が継続的に入居する状況を作っていくために、アクセラレータプログラムによって将来の入居企業となるイノベーティブな有望スタートアップを育成すること。それがSwire Propertiesの狙いだ。

 

 アクセラレータプログラムをオープンイノベーションによる協業などの短期で実現できる成果を獲得する手段とするのではなく、超長期で将来の顧客育成のためにプログラムを活用する数十年単位でのビジネスを見据えたSwire Propertiesの取り組みはアクセラレータプログラムの活用方法として新たな選択肢を実施検討企業に提供している。 


 

 

前の記事へ  BLOG TOPへ  次の記事へ

執筆者

株式会社ベルテクス・パートナーズ

INNOVATION SOLUTIONチーム

 

大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。

Share on Facebook
Share on Twitter
Please reload

特集記事

RPAの次はナレッジワークの生産性向上。Narrative ScienceのAIソリューション

2018/03/06

1/10
Please reload

最新記事
Please reload

AI/機械学習活用や
イノベーション/新規事業創出/業務改革のご支援についての
サービス詳細やご相談は
下記よりお気軽にお問い合わせください
メールでのお問い合わせはこちらから
info@vertex-p.com