- ベルテクス・パートナーズ INNOVATION SOLUTION チーム
小売大手のイノベーション創出手段としてのアクセラレータプログラム活用
欧州でも進み始める小売業界におけるオープンイノベーション
これまで小売業界では米国中心だったスタートアップ企業との協業によるオープンイノベーションを進めるアクセラレータプログラムについて欧州小売大手においても取り組み事例が見られ始めるようになった。
例えば、ドイツ小売大手METRO GROUPにおいてアクセラレータプログラムによりグループ内にスタートアップ企業のアイデアを活用したデジタル領域でのイノベーションを取り込む動きが活発化し始めている。
1.独小売大手METROの進めるアクセラレータプログラム
METRO GROUPは欧州、アジア25カ国で現金卸/小売事業を展開する「METRO Cash & Carry」とドイツ国内を中心に展開するハイパーマーケットの「real」、家電量販店の「Media Markt」、「SATURN」などの3つのセールスラインを展開している。
メトロの進めるアクセラレータプログラム、METRO Accelerator for Retail Powered by Techstarsは主に「METRO Cash & Carry」、「real」とのリソース活用や取引先業界となるホテル、レストラン業界などをターゲットにしたデジタル領域での新たなビジネスを模索してスタートアップの募集を進めている。
今回は二度目のアクセラレータプログラムとなるが2017年1月から3ヶ月間、ベルリンで実施する。グローバルで参加するスタートアップを募り、10社に絞り込み、「METRO Cash & Carry」や「real」のマネジメントなどもメンターとして参加してビジネスモデルのブラッシュのサポートを行っていく。
2.小売のフロント/バックエンド問わないイノベーション創出
METROの進めるアクセラレータプログラムがターゲットとする領域は非常に広範囲に渡っており、領域を限定することなくスタートアップとの連携によるイノベーションの取り込みの可能性を模索している。
ターゲット領域として掲げている技術/サービス領域の例としては下記のような幅広い領域でスタートアップの募集を行っている
【店舗サービスの高度化】
・店舗での買い物体験強化
・店舗内行動分析
【ECの高度化】
・モバイルコマース
・ECの高付加価値化/対話型コマース
・カスタマーサービスソリューション
・コミュニティ/シェアリングサービス
【オペレーション/商品管理の高度化】
・従業員マネジメントソリューション
・オペレーション効率化ソリューション
・配送関連ソリューション
・ブロックチェーン
・POSの高度化
従来の小売チェーンの店舗間競争に加え、ECとの競争にも勝ち抜くことが求められる中、サービス/業務領域を問わずに幅広くデジタル対応によるサービスの高度化と業務効率化によるイノベーション創出が競争力強化の必須条件となっている。
3.領域を限定しないグループを巻き込んだプログラム展開
METROの取り組みは2回目ということもあり、METRO GROUPの一部での取り組みという形ではなく、3つのセールスラインのうち、現金卸/小売の「METRO Cash & Carry」、ハイパーマーケットの「real」の2つの主力セールスラインを巻き込んで実施している。
既に実験的な取り組みという段階を抜けて、個別チェーンの取り組みというレベルではなく、小売ブランド/チェーンを超えて有望なスタートアップを発掘し、連携を模索することを進めていくフェーズに入っている。
METROの例での成果はこれからであるが、複数小売チェーンをグループに抱える小売事業者におけるイノベーション創出の取り組みの考え方として参考にできる可能性があるだろう。
傘下に持つ小売チェーンの特性の違いがあることを認識した上で、グループ内小売チェーンが連携して協業可能なスタートアップ探索を進めるというのも、小売業界で今後のイノベーション加速を図る上での取り組み方の有力な選択肢となり得るのではないだろうか。
執筆者
株式会社ベルテクス・パートナーズ
INNOVATION SOLUTIONチーム
大手通信会社、総合商社、大手メディア企業、クラウドベンダーなど多様な業種での新規事業創出推進支援を実施。各メンバーの支援実績や知見の活用と外部パートナーとも連携しながら業種を問わず大手企業における新規事業/イノベーション創出に関連するソリューションを提供。